episode 33：別れの蛍火 ページ36
｢……死んでない……?｣
いや､私の体を構成する魔力が少しずつ夜空へ昇っている｡終わりが来るのも時間の問題か｡
生きていた時もやっぱり今回みたいに1発で死にきれなかった｡自害とは難しい｡
｢オロチっ!｣
マスターが倒れ込むように傍に駆け寄ってきた｡それに続いて他の人達も私を囲むように座った｡
｢ふふっ､まさか最期を……皆さんに､看取ってもらえるなんて……｣
｢惜しいです｡貴女とはもっと話をしたかった……｣
｢光栄の限りです｡騎士王様｣
末端の感覚が無くなっていく｡本当に､私は消えるんだ｡
｢……実は今､死ぬのが少し怖いです｡前は毛ほども恐怖なんてなかったのに｡それも､知らない所で私が大事にされていたからなんでしょう｡ね､マスター?｣
マスターはずっと顰め面のままだ｡頑張って涙を堪えてるんだろう｡その表情が年齢よりも幼く見えて､つい微笑んでしまう｡
｢最後に1つ頼んでいいですか?やっと分かった私の名前､Aって言うんです｡だから最後に､皆さんに呼んで貰いたい……｣
迷惑かな､なんて思っていると大きな手が私の頭を優しく撫でた｡槍兵だ
｢これだけ濃く縁が結ばれたなら､またすぐ会えるだろうさ｡な?“A”｣
｢そうです｡またカルデアで､美味しい食事を囲んでお話しましょう｡“A”｣
｢あまり色々食べさせられなかったからな｡“A”､次は君が満足しそうなものを色々作ろうか｣
｢“A”さん､短い間でしたが､ありがとうございました｡私ももっと貴女とお話がしたいです｣
｢……まず､召喚に応じてくれてありがとう｡あの時はすごく嬉しかった｡だから､こんなに早いお別れなんて……寂しすぎる｣
｢けどそれが君の決めた道なら止めないよ｡“A”……絶対にまた君を喚ぶから｣
｢皆さん､ありがとうございます……私の本当の名前､今なら……ちゃんと_______｣
最後の言葉は1粒の涙と共に､夜空に蛍火となって昇って行った｡
｢……キャスターオロチ､Aさんの霊基消滅を確認しました｣
立香の手首にはちゃんと彼女が託した結紐が残っている｡立香はそれに手を当てると､抑えていた涙をほろほろと零した｡
ブゥン､と空中に通信画面が現れる｡映っているダ・ヴィンチも少し暗い顔をしている｡
"今回の件は残念だった｡しかし立香君､どうか堂々と帰還して欲しい｡君は1人の人間の門出を見送ったんだ"
｢……そうだね｡帰ろうか｣
なんとか立ち直り､彼らは特異点を去った｡
episode 34：召喚の儀→←episode 32：心中
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作者名：巳月 要 | 作成日時：2017年12月25日 22時
