或る街の群青二 (ページ8)

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#3 ページ8

sk「……そんな」
iw「阿部は「兎」だよ。フェロモンを浴びせて相手を操る」
sk「嘘、」
iw「あいつは逃げた俺を恨んでる。だから目黒を暴れさせて、俺を苦しめようとして、」
sk「嘘だ!!」

佐久間が叫んで岩本は口を閉ざした。佐久間は下を向いてわなわなと震えていた。
阿部が敵だったなんて認めたくない。しかし彼が、この世界は間違っているなんて謳っていた事を思い出し、岩本の話が嘘ではない事を悟る。
だとしても、だ。

sk「俺やだ、」
iw「佐久間、」
sk「阿部ちゃんが敵なんて、やだ……」

どうしても、阿部が自分を騙していただけだとは思えなかった。そうでなければ、自分が現れた時にあんな顔をしないはずなのだ。
佐久間にだけは来て欲しくなかったとでも言うような、絶望に満ちた表情を見せるはずがないのだ。

そこで佐久間は直感した。阿部はまだ、悪に染まりきってはいないのではないか。
だとしたらまだ間に合うのではないか。今なら阿部に手を伸ばす事が出来るのではないか。

sk「……たい、」
dt「ん?」
sk「俺……阿部ちゃん止めたい」

まだ間に合うなら。少しでも望みがあるなら。
佐久間は行動したかった。後悔したくなかった。
いつもそうだ。命が尽きる前に出来る事があるなら、出来る限り全てをやり遂げたいのだ。

sk「俺、阿部ちゃんを止めたい。阿部ちゃんだって、自分で止まれないだけで、本当は自分が間違ってるってわかってるような気がするんだ」
iw「……佐久間、」

心做しか、佐久間の目に巻かれた包帯が濡れているように見えた。

sk「俺、阿部ちゃんと普通に仲良くなりたい。こんなバチバチした関係じゃなくて……普通の友達になりたい」

佐久間の切実な願いだった。
阿部が自分を騙そうとしていたとしても、少なくとも佐久間を助けてくれた優しさは本物だ。阿部は最後まで佐久間の体を気にかけてくれた。それは嘘なんかじゃなかったはずだから。

sk「照……もし照がふっかって奴に会いに行く事になったら、俺も連れてって。そこに阿部ちゃんもいるんでしょ」

岩本はしばらく考えた後、わかった、と小さく返事をした。
危険な事に巻き込みたくないと思ったが、佐久間の強い意志を曲げられるとも思えなかった。

dt「だったら、」

深澤は岩本が、阿部は佐久間が止める。なら、渡辺は。

dt「俺も一緒に行く」

その時が、彼と向き合う時だ。
宮舘の真っ直ぐな視線を受け、岩本は頷いて見せた。