#3 ページ16
岩本は焦っていた。
彼は能力を使っている。しかし、全身に痛みが残ったまま無理矢理体を動かしているので、本来の速さよりはやや遅くなってしまっていた。
そのせいか、目黒が岩本の速い動きに着いてくるのだ。今までのような大振りな動きはせず、一切無駄のない動きで攻撃を避け、無表情で岩本の急所だけを狙って攻撃してくる。
おまけに目黒の手にはナイフ、岩本は素手。おかげで岩本は徐々に劣勢になり、気付けば防戦一方になっていた。
間違いなく目黒は強くなっていた。
阿部の魔術にかけられて、目黒は偽りの強さを手に入れていた。
iw「っ……!」
僅か一瞬の隙に岩本の左腕をナイフが深く切りつける。
岩本が思わず止まって傷口を押さえると、目黒もそこで初めて動きを止めた。
岩本が強く傷口を押さえた所で、左腕に伝う赤いものは止まらない。
mg「っはは……!!」
目黒は、渇望していた岩本の血液を目にして興奮した。至極嬉しそうに笑い、宝物を見るような目でナイフを見つめる。
mg「……もっと傷つけてやる、」
iw「目黒……!」
mg「もっと……もっとだ……! あははっ!!」
目黒は高らかに笑うと、再び岩本に刃を振るい始めた。
岩本は腕を押えたまま必死にナイフから逃げる。腕の切り傷が、全身の打撲痕が、目黒の裏に潜む阿部の影が、岩本をさらに追い詰める。
岩本の命が欲しくてたまらない目黒は攻撃の手を緩めない。首や心臓を狙って幾度となくナイフを突き付けてくる。
圧倒的に不利な状況で、岩本は正直、自分に限界が近づいている事を感じ始めていた。
そう思ってしまったからなのかもしれない。
岩本は目黒に足を払われ、辛うじて受け身を取りながらも地に倒された。
岩本が体を起こす前に目黒が馬乗りになる。体の大きな目黒に乗られ、岩本はついに身動きが取れなくなった。
今にも涎を垂らしそうな程に飢えた瞳が岩本をじっとりと見つめている。
mg「捕まえたあ」
目黒はにやりと笑って見せると、岩本が見える所にゆっくりとナイフを掲げた。
岩本は必死で頭を働かせた。目黒に自分を殺させる訳にはいかない。
自分が死ぬ事はこの際どうでもいい。しかし、目黒が人を殺したと知ったら悲しむ人間は何人もいるのだ。
目黒に自分を殺させてはいけない。そう思っても、痛んだ体は動いてくれない。
mg「死ね……!!」
目黒は笑みを浮かべたままナイフを振り下ろした。
その時岩本の視界に飛び込んできたのは、まるで蠍の甲殻のような赤黒い手だった。
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作者名:怜 | 作成日時:2020年11月16日 20時