rush #1 ページ14
岩本は一人、向井から聞いたビルの前に立っていた。五階を見上げ、拳を握る。
やはりここまで歩いて来ると全身が痛む。こんな体で目黒と、あるいは深澤と戦えるのか。そう問われると正直自信はない。
しかしやるしかない。岩本がやらなければいけない。ここで死んでもいい、それくらいの気持ちで来たのだから。
いよいよ乗り込もう、そう思った時、五階の窓に人影が見えた。
流石に誰かまではわからなかったが、相手が窓から身を乗り出してくれたおかげで人影の正体がわかった。
fk「え、照じゃん!!」
どうやら岩本に気がついたのは偶然だったらしい。深澤が明らかに興奮しているのが分かった。
fk「え、ちょ、今行く……あ、」
深澤は一度体を引っ込めたが、何かに気付いて再び顔を覗かせた。
fk「照!」
深澤はもう一度笑みを浮かべて叫んだ。
先程の純粋な笑顔ではなく、賭けを楽しむかのような、不敵な笑みを。
fk「頑張って俺のとこ来てねー!」
iw「……は?」
fk「お友達も照に会えて嬉しいんだってー!」
深澤はそう叫ぶとその姿を消した。
お友達、そう言われて岩本は警戒を強める。すると、黒い影が勢いよく窓から飛び出してきた。
五階という高さから飛び降りても難なく岩本の前に着地した彼は、ゆっくり顔を上げるとにいっと口角を上げた。
iw「目黒、」
mg「……殺す」
目黒はそう言って右腕を上げた。そこに握られていたのはナイフ。あの日、阿部が岩本に握らせたものだ。
阿部の殺意は消えていない、それどころか強まっている。岩本にはそれがよくわかった。
そういえば、深澤は阿部の企みに気付いているのだろうか。
mg「ひひっ……殺す、」
iw「やめろ、」
mg「殺す」
目黒は不気味な笑みを浮かべながら、じわじわと岩本と距離を詰める。岩本はゆっくり後ずさりながら警戒を強めた。
mg「殺さなきゃ」
iw「目黒」
mg「殺せば、強くなれる」
iw「……違うよ、」
mg「早く……早く殺さなきゃ、強くならなきゃ……ははっ、」
きっと目黒はこの数日間、阿部に脳髄まで毒されて思考が歪みきっているはずだ。傷つけずに目を覚まさせるのが一番だが、そんな事到底できるとは思えない。
戦うしかない。目黒を最小限のダメージで取り押さえるのが一番丸く収まる。
岩本とて万全の体ではない。今回ばかりは能力を使わざるを得ないだろう。
mg「……死ね」
目黒がついに笑みを消し、血走った目で岩本を睨みつけた。
それが開戦の合図だった。
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作者名：怜
| 作成日時：2020年11月16日 20時
