【鬼滅の刃】幸せ者の胃は崩壊寸前

宵三十二 ページ32

童磨は戦いの最中、不思議に思った。



どうしてこの子、一言も声を出さないんだろう。ちゃんと喉は生きてるのに。

攻撃を受けても受けても無表情で、無言で、まるで傷なんてないみたい。



「……歪ませたい」


え？俺今なんて言ったの？ボーッとしすぎたのか、腕を斬られるけど、そんな事どうでもいい。

湧き上がる感情に理解がついた時、その欲望は更に増えた。



長い髪の奥にある君の顔がどんななのか、この目でじっくり観察したいんだ。


救いたい。


君の声はどんな声なのかなぁ。知りたい、聞きたいなぁ。


救いたい。


分かる、分かるぜ。純粋で無垢で、何も知らない知りたくないって、髪の隙間から見える目はそう語ってる。


救いたい？違う、そんなものじゃない。



「食べたい、食べたいなぁ……！」



歪ませたい。無表情の面を剥がして、君の声を聞きながら、歪ませたまま、食べてしまいたい。

初めて抱く感情が、欲望が、留まることを知らない。



ああ、そうだ。何で今まで思いつかなかったんだろう。この茶番を終わらせる手っ取り早い方法があるじゃないか。



「Aちゃんっ。君にいい提案をしてあげる。カナエちゃんを逃がしてあげる代わりに、君が俺の元に来るんだ」


いい提案だろう？と言おうとした時、針と共に紙が飛んできた。

紙に書いてある文字は……断る、かぁ。


俺が油断していると思ったのか、飛んでくるAちゃん。


「はぁ……」


本当に残念だ。頸に刃が当たる感覚に、口端が三日月のようにずり上がった。



「残念残念。そう簡単には斬れないぜ？」



だからあれほど、平和な提案をしたのになぁ。

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