56時間目 ページ11
もう前を見る事すら諦めて、ぎゅっと瞼を閉じながら足に力を入れた。身体が傾き、宙に放り出される。恐ろしくなる浮遊感の中、いつか訪れる痛みに恐怖して…、
……激しい痛みは感じなくて、代わりに少しの痛みと温かい体温。そして、遅れてやってくる優しい匂い。数秒経てば、自分が何かに支えられた事に気が付いて恐る恐る目を開けた。
「……っと、セーフ……」
至近距離に映る、猿山先生の顔。私がぽかんとしていると、先生は蒼の瞳を細め、楽しそうに笑った。乱反射した光が散りばめられ、景色が、先生がキラキラと彩られる。ドクン、なんて心臓が大袈裟な程に脈を打って、その散りばめられた光に溶かされてしまいそうな浮遊感に襲われて、でもさっきの浮遊感とも何だか少し違って、不思議と悪い気はしなくて。
「怪我は?」
『……っえ、あ、だ、だいじょうぶ、です…、』
ふと我に返りようやく出た言葉は吶り気味の声で、動揺しているのがあからさまで自分で恥ずかしくなった。……というのも後から思った話で、その時の私は動揺でとてもと言っていいほど猿山先生から目を離す事が出来なかった。
『……!っや、!降ろして!!犯罪!!セクハラ!!!』
「エッ…!?分かった分かったから…!」
マズい、忘れてた。今自分を抱きかかえているのはあの猿山先生だ。憎くてしょうがなかったあの。
思い出したかのように暴れ、先生も急な変貌にビックリしながらも私の事を慎重に降ろした。俺助けたはずなんだけどなぁ……なんて不満げにぼやいていたけど。
久々の地面の感覚に安心しながらも、未だに早鐘を打つ胸を押さえた。折角助けて貰ったのに酷い事言っちゃったかな、なんて柄にもない事を思った。嫌いな相手のくせに。やっぱりおかしい。私はおかしくなってしまった。この先生のせいで。
気が付けばその場から走り去っていて、誰も来なそうな場所に一人隠れて、更に速くなった心臓に手を当てながら、ぐちゃぐちゃな情念を上手く消化しようと奮闘した。
……でも、未熟な私は到底消化しきれず、ただ何処かモヤついた気持ちだけが心に取り憑いた。
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葵斗 - いいぞもっとやれ (2月26日 21時) (レス) id: 6f83c28ab3 (このIDを非表示/違反報告)
いちご - 続編嬉しいです!無理しない程度にこれからも頑張ってください! (9月9日 12時) (レス) id: 1c05c5cc8b (このIDを非表示/違反報告)
零 - 愛してます”””” (9月8日 21時) (レス) @page3 id: b95bc397ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神崎いのり | 作成日時:2023年9月7日 23時