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「……君の質問に答える前に、この質問に答えてほしい。
君は、どんな事故でここに居ると思う?」
『送電塔の崩壊事故でしょう、担当医なのに知らないんですか。』
息を呑む音がして、不思議に思って医者に視線を向ける。目が合った医者は動揺していて、何故かこちらも戸惑った。
どうして、そんな表情をするのか。
『……母は無事なんですか?』
「大神くん、君のお母さんは亡くなったんだよ……」
頭を鈍器で殴られたような衝撃、目が眩んだ。
『……ああ、そうですか。』
後悔がどっと押し寄せる、サッカー観戦に行きたいだなんて言うんじゃなかった。そんなことを口にしなければいつも通り家に居て、母も無事だった筈なのに。
「3年前の、事故で……」
『……3年も前ですか。』
つまり3年もの間、自分はここで眠っていたということだ。事故から3年もの間、ずっとここで……
「でも、君が事故にあって入院し始めたのは1か月前のことだ。」
『……?』
医者が言うには、母が3年前に死去……ということは、あの事故も3年前に起こっている筈だ。
……1か月前に事故だって?
『なに……?』
危険信号と言わんばかりに、耳鳴りと頭痛が酷くなる。
「君はさ……1か月前にトラックに撥ねられそうな女の子を庇って、一緒に事故にあったんだ。」
『女の子?トラック?』
記憶にない話に思考がついていけず、目眩がした。この医者が一体何を言っているのかが理解できない、処理が追いつかない。
「その事故から1か月、君はずっと眠っていた。」
では、その事故に遭う以前は一体何をしていたの言うのだろう。
記憶にない……記憶が無い。
「……最後の質問をしようか、君の最後の記憶は何歳だ?」
嫌な予感がする。
『……11歳ですが。』
医者はこちらの質問を聞いた途端、何かを確信したようだった。
「大神くん、いいかい。」
『はい。』
「送電塔の崩壊事故、あれは3年前。
君が最後に事故にあったのは、13歳だよ。」
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作者名:鷹羽 | 作成日時:2021年2月18日 2時