繊月が閉じる時【宝石の国】 (ページ9)

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自分が自分ではなくなってページ9

「ああ…そうだ。俺は何でこんなに長い間眠ってたんだ？すぐ頭と体をくっつければいいんじゃなかったのか？」

青緑に聞きっぱなしと言うのも悪いが、今は疑問が多すぎる。
それを晴らさないとどうにもできない。

「クリソコラの右足は、月人に持ってかれてしまった。」

　は？と、声が漏れる
俺の右足は持っていかれてしまったと、今こいつは言ったのか。
一気に不安になり、自分の右足に視線を移す。
　そこには、アゲートと貝殻で出来た右足があった。
息ができない、この感覚は知らないものだ。怖い、怖い。怖い。知らなくて、怖い。

　右足をなくした恐怖で、しばらく言葉を発することができなかった。

「僕の両足もなくなっちゃって、その時に素材が幸運にも余ったからクリソコラにつけることになったんだ。」
「……………目覚めなかった理由、他にもあるんだろ。」

　右足から、現実から目を逸らすように、静かにそう言う。
うん、と青緑は言った後、続きを話始めた。

「クリソコラの頭の欠片…いや、正しくは首の欠片が一つだけ見あたらなかった。」

　嫌な予感を察して、青緑から目と顔を逸らす。
まるで自分の身体じゃない、別人の身体のようだ。
ただ右足が変わっただけなのに、そう言うのもまた大げさだとは思うが。

「だから代わりに、緒の丘で見つけたアマゾナイトを加工してくっつけたんだ。」

　首元に、優しく触れる。
確かに一部分、ザラザラというか、何か違和感がある個所があった。
首を下に傾ければギリギリ見える箇所だが、見たくないし触れたくもない。

　目を背けても、現実は変わらない。
そうわかっていても、背けないと何かが壊れてしまうような気がして怖かったのだ。

「でも中々馴染むのに時間が掛かったのか、目覚めるのがこんなに遅くなったんだろうね。頭部分は大切でデリケートだから。」

　＿随分、性格が変わったものだ。
あの頃の青緑が、どこか恋しい。こんなことを言うのも変だとはわかっているが。

「そう、か。…他に変わった事は？」

　そう聞くとフォスは小さく顔を歪める。
あまり気付かないような変化だが、観察眼に長けている俺は気付くことができた。
気付いてしまったの方が正しいだろうか。

「…アンタークが月に行った。それくらいかな。」

　嘘だ。直感的にそう気付く。
アンタークが月に行ったのは本当なのだろうが、もう一つ隠していることがあるはずだ。