流氷割り ページ12
「青緑、この武器は…。」
青緑が手渡して来た武器は、まさに巨大なハサミそのままだ。
殺傷力は高そうだが持ち運びが面倒くさそうな武器を渡してきたな、と心の中で思う。
「ハサミだね。」
「そうだなハサミだな。」
これは両手持ちか。
合金に変わったのは右手だけで、左手は未だ硬度3.5のままだ。
下手すれば欠ける可能性が高い、何故青緑はこれを渡してきたのだろう。
「とりあえず、実際に動かしてみて。」
あぁ、と1つ返事を返す。
両手で1度広げてみたが、軽くて結構扱いやすい。
この軽さなら片手がかける心配も無さそうだ。
「中々いいな。感謝する、青緑。」
「…クリソコラ、少し素直になった？」
一体こいつは俺をなんだと思っていたのだろう。
俺だってもちろん感謝だってする。
そう冷たい目線で訴えればごめんごめん、と苦笑いして謝ってきた。
＿は、こいつの方こそ素直になっただろう。
何か、心に穴が空いたかのような。そんな感覚を感じながら、1人そう思った。
＿＿
「あー……中々、きっついなこの流氷割り。腰に来る…。」
パキ、と。ハイリールの踵で氷を踏む。
儚い存在だな、この流氷も。まるで飛ばされたタンポポの綿毛のような、そんな感じだ。
「まぁ、今日はこのくらいで大丈夫でしょ。引き上げよっかクリソコラ。」
そうだな。と一言返し。
学校へと進み始める青緑の後を着いていく。
帰りの途中。
そうだ、と青緑が突然声を上げた。
「クリソコラ、眠くなったりはしないの？」
こちらへと顔を向けながら、青緑はそう問いかけてくる。
大きな声を上げた割には、大したことがないと言うか、普通の問いかけだ。
「あぁ、しないな。あんなに寝ていたから眠くならないんじゃないか？」
「そ、っか。」
この会話を最後に、辺りには風が吹く音と、2人のハイヒールが氷を踏む音しか響かなくなった。
と、その時。
空の割れ目から漏れ出した光が、青緑の髪を照らす。
晴れたということは、月人が来るだろう。
袋に仕舞ってずっと腰にぶら下げていたハサミを袋から取り出し、ぎゅっと握り締める。
きちんと月人と武器を持って戦うのは今日が初めてだ、しっかりとやってやろうじゃないか。
「青緑、先生は？」
「学校。昼寝はしてないから、気付いてすぐ来ると思う。」
了解と一言だけ返し、新しい右足へ力を込める。
そのまま氷を蹴り、高く飛び上がった。
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作者名：兀 | 作成日時：2018年6月3日 20時
