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羨ましい ページ6

「月、人」

 青緑が、気の抜けた声で呟く。
月人。先生から聞かされただけで、未だ実物を見た事もその脅威もよくわかってはいない。
ダイヤが見ている方向を見ると、確かにそこには本で見たのと同じ姿をしている月人がいた。
 全体的に白い姿は、どこか、花のようだ。
そんな生易しいものではないとはわかっていても。

「僕先生に報告してくる!」

 青緑は叫んで、学校の方へと走り出した。
お願い、とダイヤは相変わらず透き通った綺麗な声で言う。

 俺は、どうすればいいか。よく考えろ。
戦う? 武器もない、硬度だってない。もし戦ったとしても足手まといになるだけだ。
青緑と一緒に行く? 2人で行ったって意味はないだろう。

 月人が放った弓の一本が、ダイヤの足を掠る。
ダイヤの顔は、ここからでは見えないが、きっと歪んでいる事だろう。
どうする? よく、考えるんだ。この小さな頭で。
 考えてる合間に、再び放たれた弓がダイヤの片手を地に落とした。
ド、と。重みのある音がやけに生々しい。

「…っ、クリソコラ! 逃げて!」

足が、動かない。いいや、動くは動くのだが逃げようとはしない。
そうだ、こんな低硬度でも盾になることならいくらでも出来るのだ。
はは。我ながら、いいアイデアだな。

 自嘲めいた笑みを浮かべ、三撃目の弓が放たれた瞬間にダイヤの目の前へと立った。
ギュ、と。現実から目を背けるように固く瞼を閉じる。
 フォス、ダイヤ、ルチル。三つの宝石達としか言葉を交わしていないが、中々楽しいものだった。



 __終わりを感じ取っていたが、痛みも、体が崩れた感覚もしない。
恐る恐る目を開くと、視界いっぱいに黒が広がっていた。

「何をしている新入りの低硬度!」

黒は、この宝石の髪だったのか。と納得する。
助かったという安心と、自分の無力さが嫌になって、全身から力が抜けていく。
膝をついた地面は、踏まれて柔らかくなっていた。

「ボルツ…」
「ダイヤ、お前もだ。守りにばかり目を向けるな。」

ごめんなさい、しょぼくれたようにダイヤは言う。
全く、と吐き捨てたかのようにボルツは言いそのまま月人の方へと向かって行った。
あんなに強くなれば、皆を守る事は簡単なのだろう。

「…は…羨ましい。」

 誰にも聞こえぬように呟けば、
月人が消えていく様を、名の知らぬ感情を抱きながら眺めた。

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作者名: | 作成日時:2018年6月3日 20時

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