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第8話『忘れること勿れ』 ページ8

「はぁ……疲れた」

「アヤちゃん、最後に観覧車乗りましょ」


彼女に振り回されながら、私は遊園地を満喫していた。

どうやら、観覧車で最後みたいだ。


「観覧車の中でなら、手、離しても平気だよね」

「そうね、」


私達が来た頃はお昼過ぎで、わいわいしていたのに。
夕方のこの時間は、帰る人たちがちらほらと見える。


太陽が沈みきっていない、この時間帯。

「夕日って、綺麗よね」

私も夕日は好きだし、観覧車から見えるこの光景は、とても綺麗だと思う。


「何か、思い出した……?」

「……ええ、とっても大事な事を」


ガタンと、少し揺れて、彼女が私の隣にやってきた。


「私、……母親と遊園地に来た事があるの」

ただ、彼女の話に耳を傾けていた。


「とても楽しかったわ。でもね、夕方になると」


その声は、哀しみのこもった声だった。


「ずっと、握っていた手を離されて」

「私を置いて行ったの」


母は綺麗な人だった。
美しい声も、容姿も、全て。

心が弱くて、病弱な一面もあった気がする。


何か、遊園地に行く前に、何かがあって。

一番重要な事を忘れているような……


「一人で見た夕日は、とても綺麗だったわ」

一人ぼっちになった私を、照らしてくれた。


「ただ、それだけ」

「……ふふ、碌な思い出じゃないわね」


「好き……?」

「お母さんのこと、今でも好き?」


アヤちゃんは私の目を見つめる。
その目は、私をどう写しているのかしら。


「ふふ、えぇ。例え、母が私の事を嫌っていても」


私は好きよ。

「それにね、悪い事ばっかじゃないの」

「ちゃんと、忘れられないものがあったわ」


笑いかけてくる、彼女はとても綺麗だった。


「それに、今はアヤちゃんがいるしね」


きっと、この先私は忘れる事が出来ないと思う。

第9話『愛という残酷を』→←第7話『貴方に手を』


いずれ、朽ちて汚れて逢えるなら

今から行くよ。貴方の魂を喰らって。


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白波心(プロフ) - S・Sさん» ありがとうございます。此方こそ貴方様のお時間を割いてまで読んで頂き有難うございました。コメントのお返事が遅くなり申し訳ございません。 (2020年4月14日 21時) (レス) id: 4a6ed9dad0 (このIDを非表示/違反報告)
S・S - ジーンときてしまいました……すごく面白かったです!楽しい時間をありがとうございました! (2020年4月13日 14時) (レス) id: 0df261d861 (このIDを非表示/違反報告)
白波心(プロフ) - 46さん» ありがとうございます。言葉選びは慎重に行なっていたので、褒められて嬉しいです。返信が遅くなり申し訳ございません。 (2019年11月16日 13時) (レス) id: 4a6ed9dad0 (このIDを非表示/違反報告)
46(プロフ) - めっちゃ感動しました!言葉の選び方など天才的です・・・ (2019年11月2日 12時) (レス) id: 06efcbf80c (このIDを非表示/違反報告)
風野咲夜 - 番外編も面白かったよ! (2019年6月10日 17時) (レス) id: ef27f9c60f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白波心 | 作成日時:2019年5月25日 23時

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