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『辰哉くん、それ笑いながら言う点数じゃないよ』
17点って、それはもう完全に赤点じゃないか。
半ば呆れた声でそう言ったのに、「んはは」と笑い声を上げた彼はなにを思ったのか、ぎゅっと眉を寄せる私を見てさらに頰を緩める。
それにどくんと跳ねた私の心臓は、何年経っても変わらないみたいだ。
…もう、とっくに諦めたはずなのにな。
人の気持ちはそう簡単には消せないらしい。
心の隅に追いやった感情の綻びがちらりと見えたような気がして、慌ててそれをまた隅に詰める。
あー、ダメだダメだ。思い出すな、私。
いまの私には、この感情は必要ない。
『……あ、』
辰哉くんの視線から逃げるように目を向けた白い壁。そこにかかる丸い時計の針は、すでにもう6時を越えていて。
「なに？どうした？」
『…時間』
「え？」
『辰哉くん、そろそろもう帰って。私勉強しなきゃいけないから』
彼がここに来てから軽く1時間は経っていた。なんてことだ、全然気がつかなかった。
1時間あったら、英単語100個は覚えられるし、問題集なら10ページは進められる。
「え、俺もう帰んなきゃいけないの？」
『うん、帰って』
「まだ全然話し足りてねーんだけど。半年ぶりに喋ったんだからさぁ、もうちょっと話そーよ」
その言葉に首を横にふれば、不満げに口を尖らせた彼はのそりと動き始めた。
そして徐にテーブルの上に載せていた私の手の上に乗った彼の手のひら。
『っ、ちょ、』
「じゃあさ」
いや、待って。…この手はなに？
驚いて目を丸める私をよそに、彼は話を続ける。
「今日は諦めて帰るから、今度からは俺が話しかけても逃げたりすんなよ？あと今日みたいによそよそしくすんのもダメ」
『…ちょっと、まっ、…まずはこの手離して』
「やだ。ちゃんと約束してからじゃないと離さない」
は！？
思わず漏れた声に、辰哉くんはけらけらと笑い声をあげた。
いや、笑ってる場合じゃないんだって。
さっきよりもさらに急加速を始めた心音が、痛いくらいに胸を打つ。
触れられた手から流れていった甘い何かに脳が支配されて、頭の中に蓄積されていた数式やら英単語やらが抜け落ちていくのがわかる。
ダメだ、やっぱり。辰哉くんといると昔の私に戻ってしまう。
勉強一本のつくりあげられた"今の私"が、壊れていく。
よそ見なんて、してる暇ないのに。
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こゆき(プロフ) - さゆさん» コメントありがとうございます…！更新頑張ります！！ (2020年11月29日 10時) (
レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - 楽しいです！更新楽しみにしてます(^^) (2020年11月26日 23時) (レス) id: 04307595de (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - (名前)ひなさん» いつもありがとうございます…！自己満の拙い作品ですが、好きだと言っていただけて本当に嬉しいです！さらに楽しんでいただけるよう、更新頑張ります…！ (2020年10月18日 0時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
(名前)ひな(プロフ) - うわあ新しい作品もめちゃめちゃきゅんきゅんします…！！ほんとにこゆきさんの小説好きすぎて…毎日見てます！！しぇあはうすの住人もハニーシュガーの誘惑も楽しみにしてます＾＾ (2020年10月12日 16時) (レス) id: cc80ef896f (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - さーたんさん» コメントありがとうございます…！描写とても考えながら書いているので、そのように言っていただけてとても嬉しいです！今後もよろしくお願いします…！ (2020年10月11日 21時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こゆき
| 作成日時：2020年10月5日 23時
