飛蜜 ７ ページ7
久しぶりに呼んだ名前。やっぱり胸が高鳴って。苦しい。飛貴は私に気づき、「あ」って顔をする。
「……ちょっと、話そ？」
二人で来たのは、オシャレなカフェ。でもなく、レストランでもなく、小さな公園だった。ジャングルジムが撤去されてしまったみたいで、何だか物足りない。
キーキーと、音を鳴らしながら漕ぐブランコ。夕日はとっくに見えなくなっていた。すぐ側にある外灯が、影をおっきくしたり小さくしたり。
……どうやって、切り出そう？あぁもう、こんなに長く話さなかったの初めてだから。とにかく謝ろう。謝らなきゃ。
「あの」
「あのさ」
一旦ブランコを止め、横を向く。偶然重なる声。気まづい沈黙が流れ、辺りは無音に包まれた。
「俺から良い？」
「……うん」
飛貴は空を見上げる。今日は朧月夜だ。そっか。向こう行ったら、同じ月さえ、空さえ一緒に見れないんだね。
そう考えると、泣きそうになる。綺麗な鼻筋と、キラキラした瞳に吸い込まれそう。
「A、はさ。AO入試だっけ。Ｃ大の」
「え。何でそこまで知ってるの？」
「那須から聞いた」
飛貴はくすぐったそうに笑った。かと思えば、また真面目な顔つきになって。
「向こうの大学って、三年制なんだよね」
「……うん」
「俺帰ってくるよ。夏休みも、冬休みも」
春休みと秋休みは、九日しかないから厳しいけど……。そう付け足した。鳴り止まない鼓動。飛貴は真っ直ぐに私を見る。まるで、二人きりの世界にいるようで。
「もし受かったら。三年間、Aには辛くて悲しい思いさせると思う。
でも、帰ってきたらその何倍も、何十倍も、絶対、ぜーったい、幸せにする」
「……飛貴……？」
さっきから、何言ってるの。それじゃまるで、告白みたいだよ。ううん、告白じゃなくて。
プロポーズみたいだよ。
「すっごい図々しいこと言うけど。
……待ってて、ほしい」
待ってて、良いの？こんな私が？飛貴の夢のこと、サラサラ考えずに言いたいこと言った私が？
待つ筋合い、あるの？
「……ごめん。本当に、ひどいこと言って、本当にごめんね。
応援しなきゃいけなかったのに、あのとき出来なかった。ずっと、一緒にいたかったの。
本当に、ごめ」
涙を零さないよう、必死に頭を下げれば。飛貴は立ち上がり、何の躊躇もせずに私を抱きしめた。初めて触れ合う、肌と肌。
「ー……」
言葉が、宙を切る。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2045人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミント(プロフ) - どのお話もとても素敵で、短編なのに引き込まれる世界観が大好きでした！おつかれさまでした！ (2019年1月14日 15時) (
レス) id: e20fb3d910 (このIDを非表示/違反報告)
おかゆちゃん(プロフ) - 私の大好きなマジョマリがまた読めるなんて感激です（ ｉ _ ｉ ）楽しみです！頑張ってください！ (2019年1月1日 2時) (レス) id: f9588c4e4d (このIDを非表示/違反報告)
真優(プロフ) - ゆうぴのお話で、ゆうぴが一個上の先輩で、主人公が後輩の関係で直接会うとあまり話せないけどラインとかだと話せるみたいな仲でクリスマスに後輩が告白する的なものが読みたいです！ (2018年12月24日 2時) (レス) id: f8f4960291 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - お忙しい中お返事ありがとうございます(TT)！わぁ、そうだったんですね…！どれも素敵なお話だったので残念で寂しいですが、お返事頂けて嬉しかったです！これからも楽しみに読ませて頂きます☆ (2018年11月22日 22時) (レス) id: 2bc4477fb2 (このIDを非表示/違反報告)
れなさん(プロフ) - りんさん» りんさんはじめまして！いつもありがとうございます(*^^*)実はDeuxの方削除してしまいました……。もし好きな作品だったら本当に申し訳ないです(；_；) (2018年11月21日 19時) (レス) id: c72a49e4f9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：れなさん
| 作者ホームページ：れなちゃん(@pinky_lovers98)さんをチェックしよう https://twitter.com/pinky_t17?s=...
作成日時：2018年5月25日 17時
