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あたたかいしたい /不死川実弥 ページ1

明日が来たら、また私は、あの方は、戦いに行くから。

「お前、手ェつめてぇな。」
ぽつりと不死川様が言うので私は目をぱちくりとしてしまった。外は季節外れの雨でひまわりが俯いている。不死川様はひたひたと私の掌を触りながら、もう一度冷てえと呟いた。
こんな日は、座敷の畳の匂いがむわっと濃くなって頭が痛くなる。
「お師匠の手はとても固いです。」
不死川様の突飛な行動に少し戸惑い答える。表情は上手く見えないが、まるである日の母のような優しい手つきだと思ってしまった。


ひと月ほど前、初めて私は御館様にお会いして、お師匠と将来的にはめおとになって欲しいと言われた。あの日は蝉が泣き喚いていたのに、御屋敷はまるで春の木陰のようにひんやりとしていた。御館様のご意見に反する気はなかったけれど私はつい、
「私がでしょうか?」
と問うてしまった。御館様は穏やかなほほ笑みを称えたまま、
「嫌かい?」
とおっしゃられたので、私は答えられなくなってしまったのだった。このお方にはきっと私の内面が全て見えているに違いない、私の内側に潜む小さくてでも真っ黒な可哀想な生き物の姿ですら。
「実弥は、本当に真面目で優しい子なんだ。ただとても悲しくて寂しい、それを見せない強さがあるだけで。」
だから響に支えてあげて欲しいんだ、と仰られる御館様は慈愛に充ちた表情で私を見つめた。このお方の愛が私のようなものにも注がれていると知った時、泣きたいような逃げ出したいような気持ちになった。遠くの蝉の声がやけに恋しく感じた。

「俺の手は固いだろう。」
不死川様が言う。そのまま私の手を自分の頬の傷に滑らせた。並の人間であれば、体にこれだけの傷を負って生きていることはできないであろうに、暖かい傷。
「この縁談、お前が嫌なら俺から御館様にお伝えする。」
ぽつりと呟く。相変わらずこちらを見ないが睫毛がパサりと揺れるのが見えた。あたたかい傷。

「嫌、ではないのです。」
なぜだかその睫毛に共鳴して私の声が震えた。このお方のお力になりたいから弟子になった。このお方のお傍に居たいとずっと思っている。もしも、私といること少しでも心が休まるのなら、いくらでもそばにいたいと、本当に思っている。

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あおりんご(プロフ) - 吹雪さん» ありがとうございます!挑戦してみます。とてもゆっくりの更新ですが、読んで頂けて嬉しいです。 (2020年11月6日 22時) (レス) id: 8502751b8c (このIDを非表示/違反報告)
吹雪 - あの、悲鳴嶼さんは書いてもらえませんか。 (2020年11月2日 21時) (レス) id: a5355ab53e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あおりんご | 作成日時:2019年8月15日 1時

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