サカナは空を見上げた 【爆豪勝己】

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先ほどから罵詈雑言を叫び散らしている目の前の少年は、何故ここまで怒っているのだろう。

ボン！ と 彼の掌では何度も爆破が起きている。



「…テメエ舐めてんのかオイ」



吊り上がった紅い瞳は
やはり朝見た覚えがあるのだけれど本当に別人なんだろうか なんて考えながら言葉を返す。

舐めてなんかいないわ、と。



その言葉に腹を立てたのか
無表情の私に腹を立てたのか
はたまた、両方か。

彼は更に怒りを増した。





「ま、まあまあ爆豪おちつけって！」

「…Aちゃんが悪い事一切無いと思うん私だけ？」

「麗日シッ」




周りの制止もあまりに効果が無かった。



…… ああ、チャイムが鳴ったなあ。
次の授業は何だっけ。




「〜ッ、チッ 顔貸せやブス！」

「…もう授業が始まるけれど」

「うっせえ」




第3者的考えを巡らせていた私の腕を、グイッと乱暴に引っ張り立ち上がらせた彼 爆豪くん。

周りに立っていたクラスメイトたちを適当に押しのけて、私の腕を強く握ったまま教室を飛び出た。


それより、なにより。
人生2度目のブス呼ばわれ、セカンドブスまで爆豪くんに奪われてしまった。



「なんてこった」






自分でも表情筋が動いていないのは分かるけれど
これでも驚いているんだよ、爆豪くん。

なんて 彼の後頭部に念を送る。



それにも全く気付かずに 彼はズンズンと歩を進め、私は引かれる腕に痛みを感じながら着いていった。
もう教室への帰り方も分からない。




　




少しして辿り着いた教室内には

【 第3講義室 】

と立派な札が掛けられていた。


その教室は外見とは裏腹に、日頃使われていないのが分かる埃っぽさだった。
こほこほ、と咳をしているうちに掴まれていた腕は雑に離され 教室の中へと放り投げられる。


ガン ！ ガチャン ！


と 後ろ手に扉を閉めるのも、鍵を閉めるのも
いちいち大きな音を立てた乱雑な彼は 下げていた視線をようやく上げた。



　




「 なあ、お前は 俺の事、馬鹿にしてんのか 」






　



そこにあるのは


先程までの刺すような威圧感や、野蛮さなどではなく



瞳の奥に隠れる憂いと
彼を静かに纏う、静寂だけだった 。







《 海のような深い瞳 》



　

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