†佰伍拾参† ページ34
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『蛍丸様』
私は蛍丸様に声をかけてみた。
私が近くに来るまで気づかなかったようで、
びくりと肩を強張らせて彼は驚いていた。
面影様は私の方を見て微笑むと、
手袋をはめ直して蛍丸様から距離を取る。
蛍丸「…………主さん…………」
『…………主って呼んでくれたね。隣り、いいかな？』
蛍丸「いいよ」
『ありがとう』
私は蛍丸様の隣に座ると、面影様は私とは反対に
蛍丸様の隣にちょこんと座る。
身長に差があるので、こうして横から見ると
歳が離れた人間の兄弟の様だ。
面影様はぴょこぴょこと白髪からはみ出る
赤と緑のアホ毛を揺らして、嬉しそうにしていた。
見えていないのに、彼はそこまで
蛍丸様を大切に思っているんだ。
蛍丸「…………主さんはもう、知ってるんだよね」
『ん？』
蛍丸「記憶の事。膝丸が言ってた。
俺達の記憶は皆…………前の主に奪われたって」
『…………そうだね、聞いたよ』
蛍丸「気がついた時には、国行も国俊もいなかった。
この本丸には二振りはいないんだって、思ってた。
でもたまに思い出すんだ。
この本丸には、二振りはいた。
いた筈なのに…………上手く思い出せない」
『…………』
次に顔をあげた時、蛍丸様はポロポロと
大きな雫を流していた。
鼻を赤くして、泣いていた。
…………この本丸には、寂しい子が沢山いる。
以前から薬研様から聞いた言葉だ。
本当にその通りだと思う。
寂しくて、悲しい場所…………
誰もが誰かを恋しく思う場所。
『いつも、ここにいたのかい？』
蛍丸「…………うん。落ち着くんだ。
ここは蛍が一杯飛ぶから。
でも、今は冬だから…………蛍はいないんだよね」
蛍丸…………確か所有者であった主が
刀を壁に立てかけいつの間にか眠りに落ち、
その夜、不思議な夢を見る。
夢の中で無数の蛍がその刀にまとわりつき、
明々と光を放っては消えていって、
目覚めた後、刀を確認すると、
刃こぼれが全く消えていたという…………
こうして聞くと、素敵な話ではあるが、
生憎今は冬で…………彼の心の傷は癒えてはくれない。
“蛍丸…………”
面影様が蛍丸様を呼んだ気がした。
でもやっぱり蛍丸様には聞こえない。
蛍丸様と、面影様。
私は二振りの心の傷を癒す蛍にはなれない。
二振りを助ける自身はない。
私には、出来ないよ…………
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冷泉 雪桜(プロフ) - tomo10260403さん» コメントどうもありがとうございます！薄桜鬼も読んでくださって……感謝でしかないですね！これからもよろしくお願いいたします (2019年9月17日 12時) (
レス) id: 18535e1a43 (このIDを非表示/違反報告)
tomo10260403(プロフ) - 冷泉 雪桜さまの作る作品の虜になりました！薄桜鬼も刀剣乱舞も一気に読んでしまって、小説を読むのが苦手なほうなのですが、のめり込むようにするすると入ってくる文章に、夢中です！ (2019年9月16日 17時) (レス) id: f4aa91fff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2019年9月6日 1時
