†漆佰伍拾捌† ページ19
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稲荷《人様の社の清水で勝手に清めるのはどうかね》
ツムグ「!!」
稲荷《…………何用かな》
彼の者に声をかけると、驚いて顔を見上げた。
見えてはいるようだ。
桜真でも見えない者が多いからね。
少し悪戯に言ってはみたが、
彼は少し申し訳無さそうにしている。
稲荷《フッ………冗談だ。
その腕の穢れはどうした?
妖怪にでも追われたのかい?》
ツムグ「いえ、これは………」
稲荷《………まあいい。桜真の血縁者か。
ふむ………瞳は金。
成る程、そこそこ強い力を有しているようだね。
それに…………御用人でもあるのか。
これはこれは、また珍しい客が来たものだね》
ツムグ「い、稲荷様………で、ございますね」
稲荷《そうだよ。それでどうしたのかな。
私は御用人に頼む程の悩みは今の所無いのだが》
ツムグ「あ、いえ。お願いがあって参ったのです」
稲荷《ほう?御用人からの願いか。
中々面白い事を言うね、何かな》
ツムグ「………娘を、助けて頂きたいのです」
稲荷「?娘?」
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ツムグ「私には心を妖魔に
喰われてしまった従兄弟が居ました。
しかし、人を愛する事を知り、
そして子を授かったのです。
幸せそうでした。
でもある邪神によって従兄弟は
妻となる筈だった人と縁を引き裂かれ………
この世を去ってしまった。
だから残された私が奇跡的に助かった
従兄弟の娘を引き取り、
養子として育てていました」
一つ一つの走馬灯を辿るように、彼の者は話た。
内容は普通の人間にはありえない、
桜真を血を引いたばかりに
哀れな一生を辿った者の末路から始まった。
桜真に架せられた業。
堕ちた神や妖に、その甘美に近い魅惑な
人の血を持つ彼らは命を狙われる。
高位なる神でさえ、その桜の香りに酔うほどのもの。
変えようのない呪いの血筋。
奴の言う“従兄弟”とその者と添い遂げた娘は
何故………命を産もうと思ったか。
待っているのはただ辛いばかりの険しい道。
普通の人間とは違ってとても生きにくい道。
それでも命を産んだのは、
やはり………生きようとしたのだろうか。
生きた証を残そうとしたのか。
何と哀れで、傲慢なる生き物だろう。
生まれる子には、ただ生きる事が
苦しくなるだけだと言うのに。
その童に罪はないと言うのに。
だが、不思議だ。
身勝手で傲慢で、それでも尊く………
美しい愛と思えてしまう。
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慧(プロフ) - 鶴さんが健気…どうか報われますように (2020年4月12日 14時) (レス) id: e2c5fada44 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2020年3月31日 14時