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「私、あなたに手紙をかけなくなりました。
貴方に唯一できることだったのに。目が見えないから季節を、景色を手紙にしたためて貴方に綴れなくなりました。私は…私があなたに成せることなんて何も無いんです。それなのに、不死川さんが私を傍において良いことなんてあるんでしょうか?」
いけない、声が震えてしまった。
改めて口に出すと、私ほんとにただの息をしてる屍だ。
「お前…馬鹿だなァ」
ふわ、と身体が浮いた。
不死川さんが私を抱き上げているようだ。
からりと戸が開く音が聞こえて、爽やかな風が頬を撫でる。
ふと、不死川さんがしゃがんだ。
そして私の手をなにかに導くと、振れるように促す。
恐る恐る触ってみると、それは井戸のお水だった。
「触ってみて、どう感じる」
「冷たい、です」
「他にはァ」
「…気持ちがいい?」
「…」
えっ、無言ですか?
そうかと思えば今度はまた何かに触れさせられる。
これは、なにかの花?
あ、
「ハナミズキの、花?」
「触っただけでわかんのか、すげぇな」
「ふふ、こんなでも一応花屋敷の人間でしたから…
今は6月ですからね、咲く時期です。
…雨の匂いがしますね。梅雨だからかなぁ、」
「ほらな」
「え?」
不死川さんはくくっと笑って私を抱き上げたままどこかに座った。
おそらく、縁側。
「目が見えなくたって、お前これだけのことを感じられるじゃねぇか。
眼が無くても、桜の花の香で、暖かな春匂いを感じよう。
蒸し暑い陽だれや、流れる水の冷たさで夏を肌で感じよう。
ふくふくとした栗やさつまいもの甘さで、秋をその舌に感じよう。
しんしんと雪の積もる音や、ぱちぱちと燻る火鉢の音で冬を感じよう。
腕がなくとも口がある。
文などいらない、アンタの言葉で俺に教えてくれ。
季節の移ろいの儚さと美しさを。
これからは、俺の隣で。」
どうしてそんなに優しいのですか。
わたし、本当にあなたのそばにいてもいいのですか。
その腕に抱かれることを、許されていいのですか。
「貴方を好いても、いいのですか」
「それはアンタが決めることだろ。
まァ俺は大歓迎だがなァ」
だから早く、返事を聞かせてくれ。
手紙なんかいらないから、あんたの声で。
「私は、私もずっと」
不死川さんを一目見たあの日から
ずっと、ずっと、
お慕いしておりました。
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メロンパン - 完結おめでとうございます!めっちゃラスト良かったです!お疲れ様です。(*`・ω・)ゞ (2020年2月22日 14時) (レス) id: 783d8186db (このIDを非表示/違反報告)
智真(プロフ) - こんにちは!夢主さんの優しさと不死川さんの優しさが相乗効果してめちゃくちゃ優しいお話で、読んでてとても幸せな気持ちになりました!!これから2人が幸せに暮らしてくれるといいなあ、と、とても思いました(^^)素敵なお話ありがとうございました(о´∀`о) (2020年2月20日 7時) (レス) id: 809fa61cec (このIDを非表示/違反報告)
ハナ(プロフ) - 桃缶さん» コメントありがとうございます!き、綺麗な文章にかけていましたか!!??初めて言われました、とてもとても嬉しいです…!ありがとうございます!これからも精進してまいりますので、何卒よろしくお願いします! (2020年2月17日 20時) (レス) id: 8446f3cd09 (このIDを非表示/違反報告)
桃缶(プロフ) - 普通に泣きかけて、ビビっちゃいました(笑) 綺麗な文章ですね!文から趣を感じれるなんて久しぶりですこれからも応援してます!! (2020年2月15日 20時) (レス) id: 0e3ac9e584 (このIDを非表示/違反報告)
ハナ(プロフ) - fmika2918さん» 暖かなコメントありがとうございます。今流行りのドロドロ恋愛は書けませんが、とにかく純愛をと意識して書いておりますゆえ、美しいと言っていただけてとても嬉しいです。次回作も頑張ります!ぜひ、見ていってくださいませ。 (2020年2月13日 7時) (レス) id: 8446f3cd09 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハナ | 作成日時:2020年1月25日 9時