及川 徹 ( 6 / 6 ) ページ50
【 及川視点 】
俺が彼 ── 櫻井 Aに興味を持った理由はふたつ。ひとつは本人に伝えた通り、
ふたつ目 ── 彼には、未だ隠れた才能が有ると思ったから。( 異名は付けたけど…千鳥山のセッターでさえ、Aくんの実力を100%使い切っていた様には見えなかった。同じセッターとして、彼は未だやれる筈だと何度思ったか )
「……その心の余裕とやらが無くなった時、逃げたくなった時、及川さんに連絡しても良いんですか」
俺の言葉に未だ理解は及んでないのか、少し戸惑ったように目を泳がせた後、俺の電話番号が表示されているであろうスマホへと視線を落とす。
「そう言う事！チームメイトだからこそ、相談しにくい事も有るだろうしね！」
「！」
( アリャ、この様子だと既に有る感じかな？ ) ぴくりと反応しては顔を上げた彼の顔には、先程とは違い、明らかな動揺の色があった。
「及川、何やってんだ」
「ああ、岩ちゃん」
第三者の声に振り返れば、其処には真顔で此方を見る幼馴染の岩ちゃんの姿。そしてAくんの姿を捉えるなり、他校の奴に絡んでんのかよと呆れたような表情を見せた。
「絡んでるってのはチョット心外かなー。話してたんだよ」
「ハァ？ 何が違ェんだよ」
「あ、��岩ちゃん��って…北川第一のエースだった人」
「そうそう、今は青城のエースだよ！…岩ちゃんは覚えてる？ 千鳥山のウィングスパイカーだった子！」
「ああ、及川が�猝鍬瓩辰徳�いでた奴だろ。……え、こいつが？ 身長170位じゃ無かったか？」
あと声を上げたAくんの視線は岩ちゃんに向いていて。あだ名で人の事を思い出すのも中々面白いけど、それは異名で彼を思い出した岩ちゃんにも同じ事が言えてしまった。
中3から今に掛けて10数センチ伸びました。は？ 羨まし過ぎかよ。 岩ちゃんのガチなトーンの言葉に笑いを堪えていた所で、鳴り出したAくんのスマホ。どうやら向こうの主将だったようで、少し慌てたように直ぐ行きますと口にした。
――「俺、天才って大っ嫌いなんです」
「俺も、── 天才は大っ嫌いだよ」
一緒に移動しては烏野のメンバーを軽く挑発。そして帰りのバスに乗る中で、一度だけ此方まで振り返ったAくんに独りでに呟いた。
── ……及川 徹は恐ろしい男である。
Aは及川の言った言葉を、後から嫌という程に痛感する事となるのであった。
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作者名：紗羅 | 作成日時：2017年10月16日 1時
