10 ページ10
それから私達はたまにお昼を一緒に食べるようになった。毎日じゃない。向こうだって友達と食べたいだろうし、私も毎回お昼を断ってたらさすがに友達に勘づかれるだろう。きっと友達が私のしてる事に気付いたら止められる。私の為に、止めてくれる。けれど私は止められたくは無かったのだ。
「……A、ぼーっとしてること増えたね」
「え、そう？」
「うん。ちょっと前まで楽しそうだったのに」
何かあった？ と問うてくる友達にううん何も。と嘘をつく。正直に言ったら止められてしまう。そんな馬鹿なことしないでいいんだって怒ってくれる。でも、馬鹿を承知でこの行動を選んだのだ。私は今更躊躇ったりしない。
……なら私は何を考え込んでいたのかと言うと。
あの嘘告白から一週間。私達はまだお付き合いを続けている。この間、宮侑はあの最初の一度きり以来、私に本当の事を話そうとする素振りが無いのだ。
もしそんな素振りを見せたら、空気を読まずに話題でも変えてやろうと思っていたのに一度もその機会が来ない。たまのお昼時は世間話だとか、お互いへの質問だとか。まるで付き合いたてのカップルだ。
向こうの嘘が堂に入り過ぎている。思わず錯覚を起こしてしまう。まるで、もしかしたら、なんて。ほら、例えばこんな時に。
「……明日ええ？」
通りすがりざま、少しだけ制服の裾を引っ張って彼は囁く。その距離感に勘違いして高鳴る心臓が鬱陶しい、いっそ止まってくれればいいのに。
無言で頷くと、彼は少し微笑んだ。綺麗な顔が、綺麗に笑みを浮かべている。私の顔もはにかんで、けれども心のどこかで私は私を嘲笑った。
馬鹿なの？
そりゃあ表向きはそれで良いでしょう、付き合いたての彼氏にお昼ご飯に誘われたらはにかみもするでしょう。でもこれは現実じゃないのだ。嘘っぱちなのだ。他の誰が気付かないとしても、彼が私に気付かせまいとしても、私だけはそれを確実に知っているはずなのに。
なのに私は、演技も嘘もなく“はにかんで”しまったのだ。彼の笑みに釣られて。それが馬鹿らしくて仕方がない。
これじゃあ騙すも何も無い。彼には私がしっかり“お付き合いに浮かれてる女の子”に見えているだろう。それで良いのだけど、それじゃあダメだ。私が騙されてどうする。
そう、忘れちゃいけない。彼は嘘が上手なのだ。あの告白の時に思い知ったはずなのに、私はまた馬鹿をやらかすところだったらしい。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 679人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えま(プロフ) - せなけいこさん» そこまで言っていただけてただただ感謝です！！ ありがとうございます！！ (2020年10月3日 15時) (
レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
せなけいこ - 星の数が足りません！めっちゃ好きです！！ (2020年10月3日 14時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - おかか。ですか？さん» ありがとうございます！！ 作品を楽しんで頂けたようで幸いです！！ (2020年9月7日 18時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
おかか。ですか？ - 私の語彙力がないせいで言い表せないんですけど、めっちゃ面白かったです！最高でした!! (2020年9月7日 17時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - せりなさん» 天才だなんて！！ 身に余る言葉です、ありがとうございます！！ (2020年5月13日 5時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
