03 ページ3
家に帰ってすぐ、荷物を玄関に投げたままにしてバスルームへ向かった。シャワーを頭から浴びた。ひたすら浴びた。まるでそうすれば、言われたこと全て水が洗い流してくれるとでも思っているかのように。水に溶けて、流れて。無かったことにできたらどんなに良いだろう。
でも、無かったことにはできなかった。
ごうごうと耳の奥で音がするような気がした。手に力が入らないような、入りすぎているような、そんな感じがして腕が震えた。泣くのはプライドが許さなかった。私のちっぽけなプライドが、泣いてたまるかと吠えていた。
彼らはちょっとした悪ふざけのつもりだったのだろう。
宮くんは、今日中に真実を告げるつもりで、何も私を長く騙しておこうと思ったわけじゃないのだろう。
“よく知らないクラスメイト”の私を騙すことに、ほんの少しでも悪いと思ってくれていたのだろう。
でも、そんなの、知らない。
私がそんな気持ちを汲んで我慢してあげる必要なんて、ない。絶対、ない。
私は今日の朝、シンデレラストーリーさながらの幸福な物語の渦中にでもいるような気分だった。
シンデレラストーリー。有名ではない一般人のような女性が短期間に――もしくは長い年月に渡る苦労の末――幸福を手にしハッピーエンドを迎える成功物語。そこには周りの強力な手助けや、本人の才能や美徳などが描かれることが多い。
でも私はシンデレラじゃない。継母の理不尽を許す寛容さも、動物たちにも向けられるような優しさも持ち合わせちゃいない。助けになってくれる魔法使いもいない。だから身に合わないような幸運は降りかかりようがなくて、それはただの偽物だった。
そして私はシンデレラのように優しくいる必要はないから、彼の言葉を笑って流してあげる義理はない。
“幸せ”の足場はとうに崩れ落ちた。もうかりそめの幸運に縋ってはいられない。どうせ奈落に落ちるなら。
背中を押されて不意に落ちるんじゃなく、自分で奈落に駆けて行ってやる。……もちろん彼も道連れに。
どうしてやろうか。明日にも彼は私に真実を告げ、謝り、そしてほんの少しの罪悪感を晴らして私のことなど忘れてしまうだろう。私がどれだけ傷付いたかも知らずに。
「……そうだ」
思い付いた一つの仕返しに、私は知らず知らずのうちに笑い声をあげていた。そのあまりのたちの悪さに。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 679人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えま(プロフ) - せなけいこさん» そこまで言っていただけてただただ感謝です！！ ありがとうございます！！ (2020年10月3日 15時) (
レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
せなけいこ - 星の数が足りません！めっちゃ好きです！！ (2020年10月3日 14時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - おかか。ですか？さん» ありがとうございます！！ 作品を楽しんで頂けたようで幸いです！！ (2020年9月7日 18時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
おかか。ですか？ - 私の語彙力がないせいで言い表せないんですけど、めっちゃ面白かったです！最高でした!! (2020年9月7日 17時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - せりなさん» 天才だなんて！！ 身に余る言葉です、ありがとうございます！！ (2020年5月13日 5時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
