13 ページ13
何だか思ったよりも気が晴れないのはどうしてなのだろう。望んで始めて、やめる気なんて毛頭無いのに。このごっこ遊びの付き合いを始めた頃こそ友人に上機嫌だなんて指摘されたけれど、今の私には上機嫌の欠片もなかった。
何でだろうか。どうして、こんなに憂鬱な気分になるのだろう。一つ思い至ることがあるとすれば――――
「……A、」
「ん、ごめ、何？」
「宮くん呼んでるよ」
「えっ」
「課題出して無いんじゃないの？」
「あっ、そうだった」
一瞬息が止まるかと思った。こんな大勢居る場で私を呼ぶなんて何の用事かと思った。まあ、ただのクラスメイトを呼ぶのに順当な用事だった訳だが。
「ごめん遅れちゃった」
「別に遅れとらんよ」
出しそびれてたプリントを謝りながら渡すと、何だか聞き覚えのあるセリフを返される。
『あ、宮くん。遅れてごめんね』
『別に遅れとらんよ。はよ食おう』
……ああ、いつかのお昼時か。
何だかおかしくなって笑いを噛み殺していると、向こうも思い出したのか軽く吹き出した。つられて口が緩む。
まあ、気が抜けていたのだと思う。
「……宮と坂城さんて、仲良かったん？」
すっと背がひやりとした感じがした。が、私の嘘も板についたものだ。ありもしないことが口から滑り出す。
「ううん、宮くんが口に食べカス付けてたもんだから」
「なっ！」
まあこの際仕方ない。宮くんには不名誉なことだけれど犠牲になってもらおう。
幸いなことにありもしない食べカスでからかわれ始めた宮くんの方に視線が行き、私は悠々と友人の元に帰れた。
「A宮くんと仲良かったっけ？」
「ううん別に？」
そっか、と息をつく彼女がどことなく安心したように見えて。それを指摘すると困ったように言われた。
「別にさ、悪い人とかじゃないんだけど。ただ、あまり誰かと長く付き合ったって話は聞かないから」
そんなんじゃないよ、と言えなかったのはそれが誤魔化しようもなく完全に嘘だったから。だって今、ごっこ遊びでも私たちは付き合っている。そしてその噂に違わずさっさと別れるのだろう。
「へ〜、モテるだろうしね宮くん」
「うん。自分から告白したって話も聞かないよ」
私はもう少し周りの情報に気を配るべきだったのだろう。そうしたら、“向こうから告白してきた”という点に疑いを持てただろうに。
まあ、今更何を言っても遅い。
「私には関わりない話だな〜」
嘘ばかり増えていく。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 679人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えま(プロフ) - せなけいこさん» そこまで言っていただけてただただ感謝です！！ ありがとうございます！！ (2020年10月3日 15時) (
レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
せなけいこ - 星の数が足りません！めっちゃ好きです！！ (2020年10月3日 14時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - おかか。ですか？さん» ありがとうございます！！ 作品を楽しんで頂けたようで幸いです！！ (2020年9月7日 18時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
おかか。ですか？ - 私の語彙力がないせいで言い表せないんですけど、めっちゃ面白かったです！最高でした!! (2020年9月7日 17時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - せりなさん» 天才だなんて！！ 身に余る言葉です、ありがとうございます！！ (2020年5月13日 5時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
