星の雨

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艶々と光る洋物の革靴をお履きになると、

先に、玄関扉の外へと出て行かれる。


慌てて追いかけると、

いつの間に、
屋敷の前には馴染みの車夫さんの人力車が付けられてあって。


藤井様が先に乗り込まれて、


「望美さん、さあ、」


手を差し出される。


二人きりの方がお断りしやすいかもしらへん。


そう思い直して、

差し出された手は取らずに、

続いて、車に乗り込んだ。



はようお断りしなければ。


気ばかりが急くけれど、

藤井様はどこ吹く風。


藤井様のこと、
無愛想で無口な、

どちらかというと怖そうな、お方と思うてたけど、

それは誤解やったと、すぐに気付いた。


当世の流行歌や話題の文学、
話題の幅が広くていらっしゃって。


着物の柄やお洒落についても、
お詳しくて、

女学生の私の興味を惹く話をして下さる。


如才なく、つつがなく、

それでいて、飄々としてらして、

ほんまに独特な方。


男の方と二人きりなんて、生まれて初めてやから、
周りの目が気になって仕方ない。


そのくせ、

もし隣にいらっしゃるのが、
崇裕さんなら、どれだけ心踊ったやろうと、

夢想せずにはおられへん。



いつか二人で、百貨店にも来てみたい。

それに、劇場や海、茶房に、・・・

際限なく広がる夢。


黒い紋付袴の崇裕さんと、
白無垢の自分の姿が、

脳裏に浮かんだところで。


「望美さん、この真珠のかんざしなど、いかがですか？」


藤井様のお声に、我に返った。


ショーケースの中には、

細やかな細工の施されたかんざし。


一際、美しく輝く、真珠の白さに、目を奪われた。


「まあ、綺麗・・・」


「気に入られましたか？」


「あ、いえ。
こんな高価なものを頂く理由がありません。
藤井様、私は・・・
藤井様のお嫁さんになることは出来ません」


はっきり言うた時に。


百貨店の扉の向こうから、
崇裕さんが駆け込んで来る姿が見えた。


「望美ちゃんっ！！！どこや！！！」


混雑するお客さんの中で、
辺りをぐるぐる見回してはる。


よっぽど急いで来はったんか、
肩で息をしてはって。


余裕のない必死なご様子に、
どうしたって、胸がときめく。

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