8.待っている ページ20
＊
幼少からこんな風に人と触れる機会は無かった。上に男性ともなると更に耐性が無い。
｢あの、恭弥さん｣
｢なんで｣
突然の疑問にえ、と声を洩らすと抱きしめたまま耳元で囁く形で会話が続けられる。ゾワゾワとする感覚に身を捩るが離す気は無いようだ。
もしかして、この人って男女間とか他人との距離を計れないだけなんじゃないんだろうか。何となく納得の行きそうな答えを見つけたが現状は変わらない。
｢君っていつから僕に敬語なの｣
｢いつって｣
いつだ？あまり覚えていない。
確かに最初は小さかったし、そんなに礼儀だのなんだのを気にしていたこともなかったような気がする。
というか、何故今更そんな話をするんだ。
｢家柄も特に関係なくなったのに、僕と距離を取りたがる理由がよくわからない。僕と違って君は別に人の事嫌いじゃないでしょ｣
純粋な疑問らしい。本気でわからないから知りたいというような感じだ。
体勢のせいで、相変わらず男性にしても低い声が鼓膜を震わすのに、何か言い表せぬ羞恥を感じる。物凄く恥ずかしい。
私の感覚は通常なんじゃないだろうか。むしろこの人がおかしい筈なのに、こうも平然とされれば此方の感覚を疑ってしまう。
なんでこんな小っ恥ずかしい体勢で会話をしなければならないんだ。
｢いや、だって、もう癖ですし｣
｢ずっと違和感ある｣
｢じゃあもっと早くに言ってくださいよ｣
｢言っても君が家がどうのって返してきた｣
子供が駄々を捏ねるように不機嫌そうな声を出す彼から抜け出そうと背中を緩く叩くも、やはり離そうとはしない。
困ったものだ。
正直本心を言いたいとは思えない。距離を取る理由ってそんなもの、そんなもの決まっている。だがしかし言いたくはない。
私が返答を渋っていると、なんで、と質問攻めにされる。ええいままよ言ってしまおう。この駄々っ子はきっと本心を言うまでうるさいだろう。
｢嫌われたくないでしょう｣
｢何に｣
｢恭弥さん以外にいるんですかこの話｣
気まずくなって目を逸らす。
嫌々と言っておいてもなんだかんだこの人しかいないのだ。友人、かは怪しいがまともに会話をしている人間は同世代で恭弥さんくらいのものである。
他には特に思い当たる節がない。交流関係なぞ無闇矢鱈に広げられる立場でもなく結果このザマなのだ。
間を空けて何も喋らない恭弥さんがはあ、とため息をつく。だからそのため息は私の耳にかかるのだ。自重して欲しい。
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さとう(プロフ) - コメント失礼します。とっても面白くて何回も読み返してしまいます！夢主ちゃんと雲雀さんの歪な関係がとてもグッときます。影ながらいつも応援しております。更新無理せず頑張ってください！ (2019年6月18日 23時) (
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作者名：銀竹 | 作成日時：2019年5月28日 20時
