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「まだ話したいことがある、Aと」
「……例えば、どういうことを？」
「えっと、何から言えば良いんだ。その、」
「うん」
「どうして……辞めたの？」
Aはじっとオレを見つめてゆっくりと頷く。
それは聞きたかったことの一つではあるけれど、確実に、絶対に、今この路上で聞くような話ではないはずだ。
明らかに狼狽えるオレをAはくすりと笑って、それを心もとなく眺めていれば、ようやく口を開いた。
「私ね、ステージに上がる途中、何もないところで転びそうになったの」
「……Aが？」
「そう。衰えを感じたら、急にそこが限界だと思って。だから辞めたんだよ」
そう言いながら肩を竦めて笑うAは、過去について全く未練が無さそうに見える。
それもそうだ。
あれから長い年月が経った。
「聞きたいのはそれだけ？」
「いや、まだいくつも、だって久しぶりに出会えて、こんな」
「うん」
「オレは話したいことがたくさんあるんだけど、Aはどう……？」
Aは頷きながらも、なんとなく困った顔をしているように見える。
それがわずかに苦しそうだとも感じた。
「残念だけど今からちょっと……どうしても動かせない大事な予定が入っててね」
「そ、っか」
「……マーク、」
「うん？」
「いつまでここにいる予定？」
「あっ、えっと、どうだったっけ。まだ帰りのチケットは取ってなくて、休暇は一応まだ少しあるから、その、」
「明日はここにいる？」
「うん、いる」
「じゃあ明日、そこに見えるカフェで。同じ時間に」
小さな店を指差して言ったAのその言葉に、自分はちゃんと頷けていただろうか。
Aはそのまま手を振って足早に去って行き、大きな道へと出てすぐタクシーに乗って去って行った。
こちらを一度も振り向かないAはやっぱり薄情だと思う。
オレは最後まで見送ってからもずっと、その場から動けないでいたのに。
(行き先・完)
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さっちゃん(プロフ) - 作品読ませていただきました。途中胸が苦しくなるほど、とても良い作品でハッピーエンドで終わり良かったです。またトキメキと良い意味での胸の苦しさを求めて何度も読もうと思います。素敵な作品をありがとうございます。 (9月26日 22時) (
レス) @page49 id: 585b81384e (このIDを非表示/違反報告)
ちるぬな(プロフ) - 初めてこの作品を読ませていただきました。言葉遣いからストーリー構成まで、ほんとうに好きです。素敵なお話ありがとうございます。これからまた何十回と読ませて頂きます^_^ (9月20日 21時) (レス) @page49 id: 7c0a70e250 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» 私こそすみません…！作品の方また楽しんでいただければ幸いです！ (2021年8月31日 11時) (レス) id: 9dd39ae13b (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - せのさん» そうだったんですね！失礼いたしました...！ (2021年8月30日 21時) (レス) id: ef764b671d (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» こちらこそ読んでくれてありがとうございます〜〜！！Twitterはしてないので教えられず……！ (2021年8月30日 16時) (レス) id: 01bd2f8507 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：せの
| 作成日時：2021年8月2日 0時
