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忘れそうになっていた記憶が、パッと火が着いたように簡単に蘇る。
「A、」
どくりどくりと指先が脈を打ち、麦わら帽子へ落としていた顔を上げれば、その瞳と視線が交わった。
喉まで出かかった何かの言葉が、確かな重さを付けて胸の中へ落っこちていく。
すると突然、Aはくるりと振り返り、全速力で反対方向へ走り出した。
それを追ってすぐにAの腕を掴むと、驚きに開いた丸い目が自分を非難しているようにも見えた。
「マーク、悠太くんに聞いたの？」
その声色は警戒の色を滲ませている。
どこか憎んでいるようにも聞こえて、掴んでいた手を慌てて離した。
「ち、違う」
「じゃあどうしてここ、に……こんな……」
「A？」
「……ううん、ごめん。そもそもここはマークの育った場所で……ああ、でも……ここへ来るなんて、そんな事は一言も、」
「え？」
「いや、何て言ったら……こんな偶然があるのかと思って……」
Aはオレに目を向けたまま、何かに呆れるように眉を顰めた。
いや、実を言えばこれは偶然じゃない。
ヤンヤンから届いた、期待するのも虚しく思う程度の情報だけを抱えて、元々行こうとしていた場所を取り止め、急遽カナダにやって来た。……なんて事を、いくらなんでもAには言えない。
それでも、そんな偶然にあり得ない事を、Aは納得したのだろうか。
オレが持っていた麦わら帽子を軽い動きで奪い去り、「ありがとう」と簡単に微笑んでしまう。
帽子のツバに自分が握りしめてしまった跡が付いていても、Aは何一つ冗談も言わないし、悪態をつく事も無い。
そういえば会う事ばかり考えていた“会えたら話したい事”は山ほどあるけれど、再会した瞬間をどう乗り切るかは考えたことが無かった。
じわりと、握り締めた手の内側に汗が滲む。
「マークは旅行に？」
「……うん、そう。Aも？」
「まあ、そうかな。多分」
「多分……？」
「引き留めちゃってごめん。これからどこかに行く予定だった？」
「いや、ここには通りががかっただけで……」
「そっか。じゃあここでさよならだね」
胸の前で手を振り、今にも去って行きそうなAとここで別れれば、きっともう一生会えないんだろう。
そんな考えが頭の中でパッと浮かび、裏返りそうになる声を飲み込んでAに尋ねる。
その言葉はなんとなく、すがるような声に聞こえたかもしれない。
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さっちゃん(プロフ) - 作品読ませていただきました。途中胸が苦しくなるほど、とても良い作品でハッピーエンドで終わり良かったです。またトキメキと良い意味での胸の苦しさを求めて何度も読もうと思います。素敵な作品をありがとうございます。 (9月26日 22時) (
レス) @page49 id: 585b81384e (このIDを非表示/違反報告)
ちるぬな(プロフ) - 初めてこの作品を読ませていただきました。言葉遣いからストーリー構成まで、ほんとうに好きです。素敵なお話ありがとうございます。これからまた何十回と読ませて頂きます^_^ (9月20日 21時) (レス) @page49 id: 7c0a70e250 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» 私こそすみません…！作品の方また楽しんでいただければ幸いです！ (2021年8月31日 11時) (レス) id: 9dd39ae13b (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - せのさん» そうだったんですね！失礼いたしました...！ (2021年8月30日 21時) (レス) id: ef764b671d (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» こちらこそ読んでくれてありがとうございます〜〜！！Twitterはしてないので教えられず……！ (2021年8月30日 16時) (レス) id: 01bd2f8507 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：せの
| 作成日時：2021年8月2日 0時
