ep341 ページ44
医務室で静かに寝息を立てるAを扉越しに眺める沖田。
数刻前、血だらけの参謀が担ぎ込まれて来た時は自分の目を疑った。
銀時の腕の中の彼女は意識こそ失っていたものの、瞼にはうっすらと泣き腫らした跡。
あの参謀が泣いたということにも驚いたが、その重傷を自分には隠し通されたという事実が何より衝撃だった。
「……怪我人だ。んな眼で見てやるな」
その時現れた土方の言葉で、自分が怪我人相手に恨みがましい視線を向けていることに気がつく。
だがお門違いだと分かっていても沖田は胸中に広がる肌触りの悪い感情を隠せなかった。
「……俺が聞いた時は何でもねェみたいに誤魔化したんでさァ。こちとら面白くねェ」
「面白くなかろうがそれが事実だ。俺達はアイツがそれを明かすのに足る存在じゃなかったってことだろ」
そう言って煙草をふかす土方。
「なんですかィ。土方さんもちゃんとこじらせてるじゃねェですかィ」
「……るせぇ」
土方は煙と共に小さく悪態を吐いて
「結局、テメェらと過ごした過去の方がアイツには重かったってことだろ。いい意味でも、悪い意味でも」
ずっと黙っていた銀時と桂を振り返る。
だが当の2人は土方の予想に反して、自分達よりよほど苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「残念ながら、アイツのお守りは俺らじゃねぇんだよ。今回はそいつがいなかったからあてがわれただけだ」
吐き捨てるように言った銀時。
「……マジで全員こじらせてらァ」
そう呟きながら沖田はまだ眠り続けている参謀を見つめた。
信頼されていると思ったのは驕りだったのだろうか。
“仲間だから”と言っていたあの日の言葉さえ不安になる。
結局は越えられない一線が引かれているのだから。
相手によってその線が少し手前にあるか、先にあるかの違いだけだ。
「別に今更あの人の引いてる線飛び越えて、核心に迫ろうなんて思ってねェですよ」
沖田は視線を落として「でも…」と続ける。
「旦那達でもダメってんなら俺達に望みはありやせんねィ……」
重い空気が立ち込めたその時
応急処置の補助を頼む隊士の声が響いた。
「……行くか」
そう言ってその場を去っていった彼等。
医務室は途端にしん……と静まり返る。
すると暗い医務室のベッドからゆっくりと起き上がったA。
「……」
しばらく無言のまま虚空を見つめる。
そして痛む傷を押さえながら立ち上がると、その部屋を出た。
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ギラッフェ(プロフ) - ろこもこさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて感謝しかありません。前作も必ず完結させるつもりですので長い目で見ていてくださると嬉しいです。これからもよろしくお願いします! (2022年1月18日 23時) (レス) id: 3534028906 (このIDを非表示/違反報告)
ろこもこ(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます!前作の最終兵器に宜しく からずっとファンです…!ギラッフェさんの小説は人物や世界観が作り込まれ、何より愛が感じられて大好きです!!これからも応援しています! (2022年1月18日 15時) (レス) id: c1accee4d9 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - むーさん» そう言っていただけて嬉しいです!ゆるゆる更新してますがどうぞこれからも宜しくおねがいします (2022年1月11日 19時) (レス) id: 3534028906 (このIDを非表示/違反報告)
むー - いつもギラッフェさんの語彙力が凄すぎて本当に尊敬します…これからも頑張ってください! (2022年1月10日 21時) (レス) id: c41de03eef (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - ゆりりんさん» コメントありがとうございます!そんなふうに想ってもらっていて感謝しかありません。これからもよろしくお願いします! (2021年11月3日 10時) (レス) id: 26330a8285 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2021年4月22日 16時