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全員が驚いたような目をしてAを見る。当の本人も、自分の口から出た言葉に目を見開いていた。
「俺、って、寧々の代役をお前が?」
「っいや、その、今のは」
「確かに、それが一番成功率が高そうだけど……」
Aが混乱していた。
俺は今、なんと言った? 寧々の代わりを俺が? いやいやいや待て、冗談が過ぎる。何を言っているんだ。確かに役に立ちたいとは言ったが、そんなこと――
「それなら、A、頼めるか?」
「……っ」
司が真っ直ぐな姿勢で頭を下げる。途端、頭の中を巡っていた言い訳がぱたりと鳴りを潜めた。Aは流されそうになるのを必死に我慢する。
馬鹿野郎、流石に無理だって、自分でもわかってるだろ。寧々の役では、必然的に、歌わなければならない。
お前はもう歌えないだろ。
歌わないと、決めたのはお前だろ!
「A」
「っ寧々」
「無理……しなくていいから。何があったかは、わからないけど、今のあんたじゃ、楽しいショーは、できないんじゃない? そんなのもったいない」
「寧々ちゃんの言う通りだよ。確かに、ショーができなくなっちゃうのは悲しいけど……『あたし達が笑顔じゃなきゃ、お客さんも笑顔にはできない』って、前にも言ったでしょ?」
二人の良心がAの口を緩めていく。それは己の不甲斐なさ、四人への申し訳なさ、そのほかにも沢山の感情からくる緩みだった。
Aは我慢する。必死に必死に、我慢する。今ここで口を開いたら、何かを壊してしまう気がならなかった。
それを見かねた司はふいに立ち上がる。手近にあったブランケットを寧々に渡してから類を手招きする。
「そうだな。役者にとって楽しくないショーなど、オレの理想に反する。類、ついてこい。青龍院に頼んで、なんとか時間を作ってくれないか頼みに行く」
「……あぁ。わかったよ」
司はうつむいてその場を動けずにいるAを通り過ぎた後、少し立ち止まって、彼女の方を見た。
「A……さっきはすまなかった。お前の気持ちも考えず……強要するような真似を」
心底申し訳なさそうな声。
それを聞いたAはとうとう、耐えられなくなった。
「っ俺が! やるって言っただろ!!」
「A……」
「寧々、病人は黙って休んでろ。それとも、これで俺の人気が爆発してお前の出番が掻っ攫われることがそんなに心配か?」
「……もう。あの時も言ったけど、そんな簡単に奪われるもんですか」
寧々は司達とともにステージへ進むAを見送る。
少し震えて、でもぴんと背筋の伸びたその背中に、昔の自分を重ねながら。
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ありに(プロフ) - 5年ぶりに夢小説を漁ってたらとんでもない神作品に出会ってしまった…応援してます☺️ (2023年3月10日 19時) (レス) id: 1064f8688a (このIDを非表示/違反報告)
ただのせかおた - 最初の注意事項とか舞台挨拶(?)みたいな感じで書いてるのめっちゃ素敵です!!お体には気をつけてこれからも頑張ってください💍応援してます!! (2023年1月21日 23時) (レス) id: 5310fc155c (このIDを非表示/違反報告)
kubota6(プロフ) - この作品めちゃ好きです!応援してます! (2023年1月10日 23時) (レス) @page17 id: a05e9c9f42 (このIDを非表示/違反報告)
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