Episode8 -5 ページ5
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私は普通の女の子じゃない。
きっと潤くんにだってそれは分かっているはずで、わかっているからこそそんな言葉を選んでくれているのかと思ったら、目にじわじわと涙が滲む。
「泣くなよ」
「だって、嬉しいんだもん…」
「そうかよ」
しょうがないなとでも言いたげに息を吐き出して、潤くんの指が私の目じりを拭っていく。
「私も好き…潤くんが、好き」
「わかったよ」
ベッドに肘から下をくっつけてそのまま手のひらが私の頭を抱く。
すぐそばまで潤くんの夜色の目が迫っていた。
「なぁA、俺のものになってくれ」
「！」
すぐそばで甘い誘惑みたいに潤くんがささやく。
強く頷きそうになって、ギリギリで私は思いとどまった。
「……でも、私…」
そう私には。
紅き唇褪せぬ間に。
有名な一説がまた思い浮かぶ。
「婚約、してるの…」
「……そうか」
静かに吐き出す潤くんは、しかし目をそらしたりはしなかった。
「それでもいい。俺が何とかする。だから、俺のものになってくれ…A」
悩んだのはきっと一瞬だけ。
喉まで出かかっていた言葉を、私は外へと押し出した。
「うん…なりたい……潤くんのものに、なりたい…！」
「ありがと、A」
低い潤くんの声が私の名前を呼ぶ。
胸の奥でいろいろな感情がないまぜになっていた。
その中でただ一つ、確かに感じ取れる感情は。
潤くんが好き、ただそれだけだった。
「なぁ、キスしていいか」
「……いい、よ…」
当たり前の話だけど、翔さんとだってしたことない。
私と翔さんは恋人ではないし、私の初恋は叶いようもなかったのだから。
だから。
初めて触れた他人の唇は、不思議な温もりを伝えるものだった。
目を閉じた瞼の裏に、翔さんや小梅ちゃんの顔が浮かぶ。
あぁ私は、なんて厄介な恋をしてしまったんだろうかと。
何かのヒロイン気取りでほんのちょっとだけ思ってみたりした。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年12月10日 17時
