Episode10 -5 ページ18
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久しぶりに返ってきた自室は私が別邸に移った時と同じままの形で残されていた。
綺麗に掃除されているのは常日頃手入れされていたからか、もしくは私をここに留めるために掃除をさせたのか。
……さすがに前者よね、と私は無理やり納得する。
私を部屋まで連れてきた雅紀はすぐさま紅茶を淹れるために出ていった。
私を一人にした方がいいと思ったのかもしれない。
雅紀は…お父様に直談判すると言った私を頭ごなしに否定することはしなかった。
潤くんたちにだって私の顔が晴れたことはお礼を言っていた。
案外、雅紀はお父様とは違う考えを持っているのかもしれないなと初めて考えた。
雅紀はどんな想いでお父様に取り次いでくれたんだろう。
家族よりも近くにいる相手なのに、雅紀の気持ちすらわからない。
そういえば、智くんはどうしただろう。
まだどこかの応接間で待ってるのかな。
「Aちゃん、入っていいか？」
そんなことを考えてたらノックのあとに智くんの声が聞こえた。
「どうぞ」
ノックをしてから入ってくるあたりあくまで智くんは運転手である。
「大変だったな」
扉を押し開けて入ってきた智くんの手には紅茶とクッキーが乗せられたお盆があった。
紅茶で温められた喉を滑り落ちるクッキーからは雅紀の手づくりの味がした。
慣れ親しんだ味に力の入っていた肩が少しだけ楽になる。
「…わかってたことだけどね」
甘いものを食べて温かいものを飲んで落ち着いたのか吐き出した言葉は自分で思っていたよりも落ち着いていた。
「そうだよな。Aちゃんは分かってるもんな」
「……雅紀に何か言われた？」
「いや……いや、隠し事はできねぇよな。様子見てきてくれって言うからさ」
「そっか」
また一枚クッキーに手を伸ばした。
智くんが真似するみたいに横からクッキーをつまみ上げる。
黙々と、私はクッキーを食べ続けた。
一枚食べるたびに潤くんがくれた砂糖多めのクッキーの味を思い出したけれど、それはすべてストレートの紅茶で流し込んでしまった。
「……泣いとくか？Aちゃん」
クッキーが全部なくなったころ智くんがぽつりと言った。
喉の奥からせり上がったものをこらえるように、私は一度だけ首を横に振ったのだった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年12月10日 17時
