Episode10 -3 ページ16
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無理だと分かっていても諦められない。
素直に頼むしか方法はないのだ。
たとえどれだけ不可能に近くても。
可能性は、これしかない。
少しの間黙っていたお父様が、重たい口を開く。
「A、顔を上げなさい」
その声に従って私は顔を上げた。
お父様は眉間に皺を寄せたまま、もう一度視線を雅紀に投げる。
「相葉、確かAは怪我をしたと言っていたな、どこぞの少年のせいで」
「…はい」
「A、その手の怪我はどうなんだ」
急にそう言われて思わず右手首に触れる。
そこには今日も包帯が巻かれたままだ。
「…大丈夫です。少し痛みますが…今度の演奏は必ず成功させます」
「……そうか」
私の言葉を聞いたお父様は難しい顔をして黙り込んでしまった。
ここは応接間の一つだけど、お父様が部屋にいると威圧感があってどこぞの玉間にでもいるんじゃないかと錯覚しそうになる。
壁際に置かれた大時計が音もなく秒針を進めているのを私は落ち着かない気持ちで眺めていた。
やがて、お父様が顔を上げる。
「お前の言いたいことは分かった。……だが、理解をするのと認めるのは違う」
「！」
お父様の目は真っすぐ私を見つめていた。
意外にもそこに怒りの色はない。
けれど、その口から出てきた言葉は到底私の望むものではなかった。
「お父様…」
「お前だってわかっているだろう。櫻井家の子息との婚約には櫻井家と上条家の提携を成す意味がある。お前の結婚はビジネスに必要だ。そんなどこの馬の骨ともわからないやつとなど交際できるわけがないだろう。…わかるな」
どこか言い聞かせるようでさえあった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年12月10日 17時
