とある英雄王と出来損ないの兄の話

Ep.3 -王の冒険と遭遇- ページ9

___偶には、
雑種に紛れて雑種の生活を知るのも
悦であろう。

そう考えるや否や、
いざと言う時に隠し持っていた庶民の服を着込み
目立つであろう顔は、
マントのフードを被る事で隠す事にした。

「…ま、こんな布切れごときでは、
我の黄金律は隠せまいがな。」

そんな事を笑いながら呟くと、
寝室の窓から飛び降りる。

元々鍛え上げられた体だ。
暫く使って無かろうと、
これくらいの高さは朝飯前だった。

ジグラットの1番上の段に降り立つと、
その勢いで2段目、3段目と降りていった。

____まぁ、最後だけは階段で降りたが。


我の完璧な変装が幸を成したのか、
下町で未だに忙しく働いたり
酒を飲んだりして騒いでいる雑種共に
我の正体はバレなかった。

「ふん…これが雑種の生活の様子か。
普段ジグラットの玉座から観るものとは、
また違ったものよなぁ。」

我はそんな事を呟きながら街を見渡す。

途中、色んな者共に喋りかけられたが、
そこは声を変えて対応した。

そんな自分の鮮やかな手際に惚れ惚れしていると
何やら騒がしい声が聞こえてきた。

我は騒がしい方に目を向け、
足を進めた。


「…全く。これだから雑種は…。」

いざ見ると、
雑種風情の男二人がいがみ合っているでは無いか。

状況から察するに
酒が入ったせいで喧嘩に火がついたらしい。

何とも馬鹿らしい、雑種らしい行動原理だ。


だが__

「(…見てしまっては仕方が無い、我自ら__)」

そう思って足を踏み出した瞬間



『おいおい、何してんだよオジサン達。
そんなんじゃあ
…折角の酒が不味くなっちまうぞ？』



その場にそぐわないお気楽な声が

その場に響き渡った。

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