捕食者 ページ35
A視点
ゆっくりと忍び寄り、額に銃口を宛てがう。
殺してからでないと捕食する時に起きてしまう可能性があるからだ。
殺してから食べる。正しくその行為は人間だ。
だが今の俺は人ではなくて。食べるのは人間だ。
俺は人ではない。知らぬ人の記憶を持った空っぽの化け物。
知っている。分かっている。なのに涙が溢れるのは俺が弱いからなのだろう。
泣いたから人になれる訳じゃない。偽りの記憶のように幸せが過去にあったことには出来ない。
それなのに。
目隠しが出来ない顔から水が滴り落ち、標的である呪術師を濡らす。
幸い彼女は起きなかったが、少し焦った。
もし起きてしまったら、安楽死は約束できない。
そうなれば待っているのは痛みと恐怖と混沌だ。
覚悟を決め、再度銃口を向ける。
消音器を付けてた銃は静かに彼女を殺した。
これが目覚めになるのだ。後悔は、多分していない。
イライは優しすぎてきっとこんなこと出来なかった。
イライを苦痛から守ってやるのは家族の役目。
……たとえそれが偽りの記憶情報でも。
俺が守ってやりたいから、そうする。
素早く彼女の身体を取り込み、吸収する。
一日に食べることの出来る上限は4人。
今日はもう4人食べたのでこれで終わりだ。
きっともっと食べることは出来るが、荘園の力が働いているのか4人以上は食べる気が起きない。
どうやっても無理だ。
今日は呪術師と炭鉱者と納棺師と機械技師を食べた。
どうかみんなが現実世界で幸せな人生をおくれていますように。
……なんて、願ったところで結果は変わらないのだが、なんとなくそう思うからついつい最後に祈りを捧げてしまう。
重い足を引きずりながら自室に戻る。
優しいイライを守るために。
俺が人ではないことを忘れないために。
……記憶への未練を殺すために。
俺が他を喰らうのは自分のためにほかならない。
だが同時に俺は皆を助けるための生贄なのだろう。
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ゼロ(プロフ) - なんかクトゥルフ?とかわからないけど読んでみたら面白かったです! (2020年6月21日 23時) (レス) id: c3efaf6a5b (このIDを非表示/違反報告)
外国製烏(プロフ) - 月さん» ありがとうございます!光栄です! (2019年6月1日 13時) (レス) id: 19489dbd8a (このIDを非表示/違反報告)
月 - 面白いですね! (2019年5月31日 19時) (レス) id: 235ab58054 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:外国製烏 | 作成日時:2019年5月24日 18時