坊やと予兆 ページ11
「にしても凄かった、バッグで倒しちゃうなんて」
「うん、私も顔面直撃は想定外だった」
坊やの言葉に微笑みかえし、疑問を口にした。
「今さっきのお巡りさんと知り合いだなんて、坊やは顔が広いんだね」
「高木刑事のこと?」と首を傾げてこちらを見上げる坊やに頷くと、彼について話してくれた。
どうやら坊やが何らかの事件に巻き込まれると
すぐに駆けつけてくれる刑事さんらしい。
彼女さんは同じ警察官で一緒に行動している、
とかなんとか、私には関係無い話までしてくれた。
それから私について知りたがる一面が見られた。
けど さあね とか どうだろうね で切り抜けると、
「もうすぐで着くよ」と無邪気に笑顔を見せた坊やに不思議な子だという印象を抱く。
あれから帰り道ずっと繋いでいる手をキュッと
握ると小さくて温かい子供の手だと認識する。
「坊やは面白いね、いくつも顔があるみたい」
「えっ?」
「無邪気に笑うのは子供だから当然だけど、
たまに何か考え込むと大人の表情になってる」
「そ、そうかな」
私の言葉に動揺しながらも取り繕う姿にはやはり、大人の対応と多少の子供っぽさを感じられる。
子供っぽくない子供だなあ。
ふっ、と目を細めたがすぐに坊やの手を離した。
「じゃあね、坊や」
再びにこりと手を振って踵をかえすと、
真ん中までのぼった階段から声が響いた。
「僕の名前は、江戸川コナン、だよ」
「私は、西條 A。またね、コナンくん」
首だけを振り向かせて彼の名前を呼ぶと、
彼は満足そうな表情をさらけ出し手を振り返した。
私は何も見ていないし何も知らない。
坊や、コナンくんが上っていった階段の先に
毛利探偵事務所があることを。
さらに、その下には一昨日来店した喫茶店、
ポアロがあることを。
そして、私のスーツの袖の裏にガムが付着していることを。
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作者名:榊 リョウ | 作成日時:2019年8月13日 19時