* ページ38
夕食を食べながら、零くんと話に花を咲かせた。零くんの学生時代の話や、ポアロでの話、それからあたしが家族に会ってきた話、師匠の料亭を辞めた話など。
家族の話や師匠の話をしたとき、零くんは悲痛の表情を浮かべた。あたしの代わりに悲しんでくれているのだろう、もう二度と会えないかもしれない彼らのことを。来れたはいいが、戻れないかもしれない。それにあたしは戻るつもりもない。
そんな優しい彼に、大丈夫だよと気丈に微笑んでみせた。
「お父さんにね、言われたの。零くんを守ってやれって。だから大丈夫、何も悲しいことなんてないんだよ」
「……それでAが一人になったら意味がない」
「意味なんていらない。それに零くんがいるから一人にはならない」
「そんなのわからない!!」
零くんが叫ぶ。彼は泣きそうに笑う。ひどく焦燥している。感情がごちゃごちゃになって、どうしたらいいのかわからず、戸惑っているのがわかる。
彼は俯き、本当にわからないんだ、と呟いた。
「僕はいつ死ぬかわからない。今潜入してる組織は、それくらい危険なんだ」
「……」
「一緒に潜入していたヒロも、四年前にNOCとバレて殺された」
ヒロくん……諸伏景光さん。零くんの幼馴染みで、親友で、大切な存在だった彼も組織に関わって死んだ。ただし零くんの孤独はそれだけで片づけられない。彼が慕っていた女医さんも、仲が良かった警察学校の同期も、みんな彼を遺していなくなった。
……たぶん、昨日まではあたしもその一人だった。
「……本当は、あたしが零くんと一緒にいるのも危険なこと?」
「……ああ」
「じゃあなんで家に上げてくれたの?」
「……!」
危険なんでしょ、と零くんに訊く。彼は頷くが、家に上げてくれた理由は教えてくれない。……きっと、彼もわかっていないのだ。頭では、それがどれくらい危険で、離れたほうが絶対に良いとわかっていながら、それがなんでかできない。たぶんそう。
「いつでも突き放せたでしょう? でもきみは、ポアロで会ったときも、工藤邸にいたときも、車の中でもそうしなかった。今もそう。口では危ないって言いながらも、あたしを追い出そうとはしない」
「それは……」
「______ねえ、なんで?」
彼が目を合わせてくれなくて、無性に悲しくて、涙が溢れてきたのを口角を上げて誤魔化した。
751人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えりんぎ苺(プロフ) - よるさん» レス遅れて申し訳ありません、気づきませんでした……! 主人公をできるだけフツーの女の子にしたかったので、それが伝わって嬉しいです。十四才零くんとのやり取り書き足りないんですよね(笑) 完結させて頂きありがとうございます。コメントありがとうございました! (2020年6月14日 18時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
よる - ちょっと文字数が足りなかったので…完結お疲れ様でした! (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
よる - めっちゃ面白かったです!とくに主人公が凄く個性が強いわけでもなく、普通の人って感じがしてとても共感するし、読みやすかったです!(語彙力少なめなので伝わってると嬉しいです) 14歳の零くんと主人公のやりとりが鮮明にわかり微笑ましい気持ちになりました笑 (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎ苺(プロフ) - ゆるり。さん» 寂しく思ってくださるなんて……! 繊細で優しい書き方だなんて初めて言われました。すごく嬉しいです。こちらこそご愛読いただきありがとうございました。ぜひぜひ次もお付き合いください。コメントありがとうございました! (2020年5月31日 8時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
ゆるり。(プロフ) - 完結おめでとうございます!この作品が更新されるのが楽しみで楽しみで、完結してしまったのが寂しいくらいです…。繊細で優しい書き方で、とてもわくわくしました。素敵な作品をありがとうございました!次も付いていきます! (2020年5月31日 7時) (レス) id: f1881e43ef (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:えりんぎ苺 | 作成日時:2020年5月25日 21時