少年Zの独白 ページ1
彼女は、春のおひさまのような
ぽかぽかあたたかくて、心地よくて、一緒にいると安心しきってしまうような。だんだん眠くなってくると、彼女は頭を撫でて膝を貸してくれるような、そんなひと。
僕は子供だったから、すぐに彼女に懐いた。
自分でも笑っちゃうような子犬っぷりだったと思う。でも僕は彼女が大好きで、ずっと笑っていてほしくて、彼女の周りを駆けずり回った。
きゃんきゃん吠えれば困ったように笑って、ぺろぺろ舐めればくすぐったそうに笑って、いたずらをすれば声を上げて笑う彼女に、僕を大好きでいてほしくて。
彼女は犬好きだったから、僕のことがかわいくて仕方なかったんだと思う。彼女は「零くん」と、エレーナ先生と同じ呼び方で僕を呼んだ。
彼女は遊びに行くことをデートと呼んだ。僕はそれが恥ずかしくて、わざわざ「遊びに、だろ」と訂正を入れた。彼女は笑って、「デートでしょ」ってもう一度繰り返すのだ。
たぶん、最初のデートは交番。僕がどこから来たのかわからなくて、すごく不安になっていたときに、「子供は大人に甘えるものだ」とかなんとか言って、彼女は警察官を相手に嘘を吐いた。
僕はそのとき初めて頭を撫でられて、ああ、あたたかい手のひとだなあ、と感じたのだ。
次のデートは買い物だ。僕の服やら洗面用具やらを全部買ってもらった。彼女の選ぶ服は全部おしゃれで高価で、僕はすごく困った。
初対面の彼女にそんなにたくさん買ってもらうのは気が引けたけど、僕のものを選ぶ彼女は終始楽しそうで、僕は結局甘えることしかできなかった。
驚いたのは最後。彼女の家に本はあるのかなと考えていたら、彼女が何かほしいのかと訊いてきたのだ。顔には出ていなかったと思う。それに考えたのは一瞬だった。彼女にバレるはずがない。でも彼女は見抜いた。彼女に隠し事はできないと思う。今でも。
ちゃんと、『それらしい』デートは動物園かな。二人で計画して、二人でお弁当を作って、二人で並んで歩いたのだから。
恥ずかしいのを隠して彼女の手を取ると、彼女はその小さな手できゅっと握り返してくれた。照れ臭かったけれど、離したくはなかったな。
動物を見てはしゃぐ彼女は僕よりも大人で、そんな彼女を見て好きだと感じる僕は彼女よりも子供で。十一も年の差があることが悔しくてならなかった。
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えりんぎ苺(プロフ) - よるさん» レス遅れて申し訳ありません、気づきませんでした……! 主人公をできるだけフツーの女の子にしたかったので、それが伝わって嬉しいです。十四才零くんとのやり取り書き足りないんですよね(笑) 完結させて頂きありがとうございます。コメントありがとうございました! (2020年6月14日 18時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
よる - ちょっと文字数が足りなかったので…完結お疲れ様でした! (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
よる - めっちゃ面白かったです!とくに主人公が凄く個性が強いわけでもなく、普通の人って感じがしてとても共感するし、読みやすかったです!(語彙力少なめなので伝わってると嬉しいです) 14歳の零くんと主人公のやりとりが鮮明にわかり微笑ましい気持ちになりました笑 (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎ苺(プロフ) - ゆるり。さん» 寂しく思ってくださるなんて……! 繊細で優しい書き方だなんて初めて言われました。すごく嬉しいです。こちらこそご愛読いただきありがとうございました。ぜひぜひ次もお付き合いください。コメントありがとうございました! (2020年5月31日 8時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
ゆるり。(プロフ) - 完結おめでとうございます!この作品が更新されるのが楽しみで楽しみで、完結してしまったのが寂しいくらいです…。繊細で優しい書き方で、とてもわくわくしました。素敵な作品をありがとうございました!次も付いていきます! (2020年5月31日 7時) (レス) id: f1881e43ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ苺 | 作成日時:2020年5月25日 21時