カマが愛を背負ってくる【JW】

. ページ36

.




その日の放課後、しげくんはうちに来なかった。

携帯なんて持ってないから、行けないという連絡もなくて、その日の夜トモちゃんが受けた電話の「家の仕事で駆り出されたから行けなかった」というしげくんの言付けを聞いた。

あの子と何を話したのかな、別れてほしいとか、私と付き合ってとか、

どんどん悲しくなって来て、のんちゃんが戻ってくると私の顔を見てぎょっとした顔をした。



「やっぱりあったんやね、大毅か」
「ん」
「全部聞いたるから足出して、両方」
「…ん」


ベッドに座って足だけ浮かすと、ラグの上に座るのんちゃんが私の足を持ってペディキュアを始める。

話していれば、ほろほろ涙が出てきて
別にしげくんが何を言ったとか何があったのかも聞いてないのにこんな気持ちになってしまうことも嫌になってしまっていることも途切れ途切れに言う。



「悪いことちゃうよ」
「…え？」
「だって、Aは何にも知らんわけやんか。怖いし、不安やし、はじめましての好きな人やろ？」
「うん」
「一般的、ちゅーか、都市伝説みたいなもんやけど。初恋って、実らんことが多いのよ」
「そ、なの」
「そうなの。それが叶ってるだけで、Aはめちゃくちゃ幸せなことで。でも、恋愛って好き、とか嫌い、とかそんな言葉で言い表せるものでも違うとアタシは思うのね」
「…」
「言葉にできないから嫌になってまうし、頭の中ゴチャゴチャで、わけわからんけどすっごい悲しくて、でもたまにすっごい幸せで。それが当たり前になってしまうと、悲しいがどんどんどんどん大きく襲ってくるようになるねん。嬉しい、幸せな時間が沢山あった分、遅れ取り戻すみたいに貯まった悲しいが襲ってくる」
「…、ん」
「なーんも変なことちゃうし、悪いことでないんよ。大毅に何があったとか、何を言われて、何を言ったとか。まだAは知らんし、聞けてもないし、まっさらな上に不安だけがしくしく泣いてるみたいなもんやろ」


いざというときは、お姉ちゃんたちが大毅のことボコしてやるから。今は大毅のこと、信じたって。

のんちゃんは左足の薬指をシルバーでいっぱいにしてニコニコ笑った。

つられたみたいに、私も乾いた涙でパリパリになってしまった頬がふわりと上がった。




.

.→←.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す