「愛してない」 (ページ47)

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『……』

時計の音だけが、この孤独な部屋に響く。

いっつも感じる疑問。

ひかるさんが居てくれる時と、居ない時のこの部屋の温度は、違う気がする。

何か、寒い。

冷たい。

前の、アパートみたい。

『…早く、』

エアコンが効いている筈なのに、わたしの手や足は冷たくて。

『……帰って、来て』

ひかるさん。

側に居てやる、なんて…貴方が言った言葉本気になんかしてないよ。

でも、優しさを知らなかったあの頃より、貴方の優しさを知った今の方が、寂しく感じるの。

何でなのかなぁ。

「……おい、」

ぶるりと、寒気がして瞼を上げた。

微かに聞こえた声の方に視線をやれば、眉をしかめさせこっちを見ているひかるさんが居て。

ほっと胸が温かくなった。

『ひかるさ、』

「お前何でこんなとこで寝てんだよ」

どうやらソファで寝ていたらしく、エアコンが効いた部屋で寝ていたせいで喉が痛い。

わたしの掠れた声に、ひかるさんは更に不機嫌そうになった。

「待ってなくていいっつったろ」

『…今日は、早いって』

「…飲み会。誘われたから」

わたしの目を見ないでそう告げるひかるさんに、ああそうかと納得してしまった。

仕事をしていれば、そういう付き合いだってある。

少し考えれば、分かる筈なのに。

『…ごめ、なさい』

何でだろう。

泣きたくなった。

「お前もう寝ろ。」

『…ひかるさん、ご飯…』

「…食った」

それを聞いた瞬間、一気に視界が霞んだ。

ああ、駄目だ。

頭がぼーっとして、回らない。

ひかるさんがわたしの腕を強く掴んで、それに引きずられるように立ち上がる。

泣きたくなる。

喚きたくなる。

寂しい、悲しい。

それって、許される事なのかな。

『…ひかるさん、』

「ん？」

『側に、居てやる、って……そう言ったの、ひかるさんだよ、』

言ってすぐ後悔したけど、もう遅かった。

「何で？」

『…え、』

「俺に、どうして欲しいの」

ひかるさんが、わたしの頬を指でなぞって涙を拭う。

「言っただろ。……俺は、お前を、愛さないって。」

そう言いながら、どうして？

どうしてこの人は優しくわたしに触れるのだろう。

愛してない。

遠のく意識の中で、そう聞いた気がする。