「愛してない」 (ページ4)

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『ただいま…』

ガチャッと、小綺麗だけど小さめのアパートの扉を開ける。

部屋の中は真っ暗だ。

あれ？居ないの？

『……翔太？』

声を掛けるも、誰も返事をしない。

静かに扉を閉め電気をつけて、ホッと胸を撫で下ろした、瞬間。

「何で電話出ねぇの」

気付いた時には、わたしの体は台所にあるイスに倒れ込み、すぐに髪を引っ張られた。

体の節々が、キリキリと痛い。

前に殴られた腕の打ち身を押さえられて、更に体が動かなくなった。

『‥‥った、』

唸り声を上げればわたしの髪を掴んでる人物、翔太はわたしの耳元で囁いた。

「なぁ、今日電話出ないでどうしてたの？」

『……散歩、』

「お前は朝5時から散歩するんだ？」

パーマがかった茶色い髪が、わたしの頬をくすぐった。

凄く傷んでるそれは、朝の踏み切りで逢った男と大違いだと思う。

『……ごめん、なさい』

謝ると、バシンッと頬を殴られた。

信じらんないグーかよ。なんて冷静な自分がいるのは、慣れているからだろう。

唇を噛み締めると微かに血の味がしたけど、もうどうしようとか思う余裕すらない。

それから何分経っただろう。

ゆったりと体を起こして、わたしの顔の傷を見た翔太が慌てているのを視界の隅で捉える。

バツが悪そうに情けない顔をする翔太を見て、どうしようもなく泣きたくなった。

「……A」

翔太がゆっくりわたしの頬に手を添える。

口の端と頬骨の傷がキリッと痛んだ。

「A…ごめ、ごめんな。」

『…翔太、』

「だってお前が、俺を置いてくから…」

『…うん。ごめん。』

「離れていくなよ。お前は俺のだろ…？」

そう言っていつも、殴った後優しくするのほんと狡い。

ドラマとかでよくあるパターンを、わたしは昔馬鹿にしながら見てたけど、実際やられたらたまったもんじゃない。

自分でも、ほんと馬鹿だろって思う。

でも。

「俺には…Aが必要なんだ」

そう言われて縋り付かれてしまえば、わたしは何度だってこの手を取ってしまう。