「愛してない」 (ページ29)

今日:26 hit、昨日:6 hit、合計:771,029 hit

29 ページ29

『ダメですよ！払います！だってそれじゃあわたしただの居候じゃないですか！』

「間違ってない」

『そ、そうだけど…そこまで岩本さんにお世話になる義理は…』

「…じゃあ、バイトはいいけどひとまずキャバクラは止めろ。」

岩本さんは片眉を吊り上げてわたしの顔を覗き込むから、驚いて思わず後ずさる。

「お前、歳いくつ？」

『21…』

「はあ…俺と変わんねぇじゃん。…もっと自分のこと大事にしろよ。」

『キャバなんて、普通で…』

「ダメ。」

『…頑固、』

「いくらでも」

『子どもっ』

「はいはい」

『……』

「だってお前、キャバなんかして楽しい？」

そう言われて息を呑んだ。

……楽しいわけない。

ノルマだってあるし、酔っ払いの相手は大変だし、先輩には地味な嫌がらせされるし。

楽しいわけないじゃんか。

「な？」

『……』

「学生のバイトなんて楽しんでなんぼだろ。」

そんな綺麗な顔して言うセリフは親父くさいんだから。

でもそれが何だか岩本さんらしくて。

不思議と温かい気持ちになれた。

……でも。

『バイトは、やっぱりしたいです、』

甘えるだけじゃ駄目だ。

何かして、岩本さんの役に立ちたいと思う。

もう捨てられたくない。

「じゃあ、もっと普通のバイトな。」

『……わかった、』

「ん。」

優しく微笑んでくれた岩本さんに、わたしも微笑む。

こんな風に誰かに自然に笑いかける事が出来るなんて思わなかった。

こんな穏やかな気持ちになれるなんて思わなかった。

この人に捨てられたくない。

出会ったばかりのこの人に、捨てられたくない。

そう思った。

「今日はどうする？」

『今日は帰ります。荷物とか、アパートの事とか、色々あるし…』

連絡を取り合うために、携帯番号を交換して、送ろうか？と言われたもののこれ以上迷惑をかけたくなくて、わたしはすぐさま立ち上がり部屋を飛び出した。

外のヒンヤリとした空気に当てられて、ようやくまともに息を吐く。

『……はぁ、』

これから始まる新しい日々。

全く知らない人と一緒に住む事には確かに不安があるけれど、岩本さんとなら何だか平気な気がした。

まずは何から始めよう。

少しだけわくわくしたような、そんな期待の気持ちが胸に溢れ出した。