「愛してない」 (ページ11)

今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:770,951 hit

11 ページ11

ここで待ってろと言われ、玄関先でちょこんと座り込む。

膝からは擦り剥き傷から血が出ていた。

「寒くない？」

救急箱を持って来てくれた岩本さんは、そう言いつつわたしの肩に黒のコートを羽織らせる。

思わず大袈裟に肩が震えてしまった。

『あ…ありがとう、ございます。』

「…いや」

岩本さんはそんなわたしの様子を見て、眉をしかめさせた。

当たり前だ。

真冬にＴシャツにパーカーにデニムパンツ。

素足のまま履いて出たサンダル。

傷だらけの生足。

自殺志願者。

ただでさえ訳分からない怪しい奴なのに、この人は自殺を止めてくれたうえに手当てまでしてくれるというんだから。

淡々と手当してくれるその優しい手つきは、不器用だけど温かくて。

また泣きたくなった。

ピタリと、岩本さんの動きが止まる。

今日出来た傷はもう手当てされたから、残るは鬱血の痕や打撲で青紫になったものぐらい。

この傷は、どうにもならない。

『あの、もう、大丈夫です』

「……」

『ありがとうございました。』

素足の足を引っ込めようとすれば、いきなり踵を掴まれた。

びっくりして岩本さんを見る。

彼はわたしの足から、首筋、鎖骨を順番に見るなり、パーカーの袖を一気に捲り上げる。

『やめっ、』

「お前この傷どうした？」

『こ、こけちゃって！』

「こけて出来るかこんなもん。」

ギュッと腕を握られて、痛さに眉をひそめると同時に、鋭い瞳で睨まれた。

『ほんとに…！平気ですから！』

掴まれた所がジンジン痛み出して、熱さえ感じる。

痛さに顔を歪ませると、岩本さんはそれに気付き手を離してくれた。

「…はぁ、」

『な、何ですか…？』

「何でも。立てるか。」

『あ、はい…』

呆れたような溜め息を吐かれた後、今度は優しく手を取られた。

ゆっくり立ち上がると、黒のコートが肩からずり落ちる。

彼はそれをさり気ない動作で直してくれた。

『あ、あの、コート…！』

「いいよ。羽織って帰りな。」

『いや、いやいやいや、駄目ですって！』

「うるせぇな。いいから。」

クシャクシャと、大きな手でわたしの髪を乱暴に撫でるから。

思わず頬に熱が集中してしまった。

こんな風に頭を撫でられたり、何の見返りも求められないで優しくされたりするのは初めてだから。

どうしたらいいか、分からない…