「愛してない」2 (ページ3)

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『……あ、』

翌日目を覚ますと、ひかるさんは座った状態のまま、わたしのベッドの端に頭だけを乗せて眠っていた。

ずっと側にいてくれたんだ、と思うと胸が熱くなる。

軽くなった体を起こし、ひかるさんの顔を覗き込んだ。

綺麗過ぎる寝顔に嫉妬さえしてしまう。

起きないように、頬に指を這わせてみる。

こんな綺麗な人と、薄汚れたわたしは一緒に住んでいる。

申し訳なさ半分嬉しさ半分。

でもやっぱり。

『嬉しいなぁ…』

ひかるさんの睫が震えた。

起きるかな？

「ん……、」

予想通り、ゆったりと瞳を開かせたひかるさんはしばらくわたしを黙って見つめていた。

何の反応も示さないから首を傾げてみると、やがてひかるさんは自分右手を持ち上げてわたしの頬に添えた。

『ひ、ひかるさ…』

心臓がドクドクと高鳴った。

だってこんなに、こんなに優しい顔したひかるさん、見たことないから。

恐る恐る添えられた手にわたしの手を添える。

更に目元を綻ばせたひかるさんは、わたしの瞳を見ながら呟いた。

「……ーーー、」

わたしの名前ではない。

誰かの名前を。

とっても小さな声だったけど、確かに、呟いたのだ。

こんなにも、悔しさに似た、気持ちに苛まれた事はない。

『っ～……起きろ！』

耳元に唇を寄せ、目一杯に大きな声を出してやった。

その声に驚いたひかるさんは、ハッとした表情を作る。

『起きた？』

「……A？」

幸せな気持ちが一気に萎んでく。

何か言いたそうなひかるさんから視線を外し、わたしはシーツにくるまった。

気持ち的に言うならば、拗ねた。

何に対してこんな気持ちになってるのかはよく分からなかったけど。

「…A？」

わたしの名前を、確認するかのように呟く。

シーツにくるまったまました返事は、きっとくぐもってしまい聞こえにくかっただろう。

「ごめん、俺寝ぼけてた？」

『うん。』

「なんか言った？」

『いいです別に』

ひかるさんの貴重な休日を拗ねたまま終わらせたくないから、もぞもぞとベッドから起き上がった。