Freiheit IV (ページ13)

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彼が姿を消し、数分後、シャワーの音が微かに聞こえてきた。
女性は、それに口角を僅かに上げると、洗面所に誰もいない事を確認し、窓側に置かれた彼の鞄を開けた。
そう、この女性、何もたまたま目黒と出会って成り行きで、という訳では無い。
Δ国の、色仕掛けを専門とする女スパイであった。

あぁ、案外チョロいのね！
α国の、しかも｢怪物｣揃いのS隊の、公表されていない軍人さん。
この情報を掴むのにどれだけかかったか！
…でも、そこからは芋づる式だったみたい。
こんなにあっさり騙されてくれるなんて。

鞄の中をよく探ると、USBと思しきものが見つかった。
あぁ、本当にチョロいじゃない！
シャワーの音はまだ聞こえている。余裕をもって見つけ出せた事に口角は上がりっぱなしだ。
後は適当に彼の従順な仔猫になって、これを持って帰れば、

目黒｢計画は完璧だって？｣

背後から聞こえた声に、即座に振り向いた、つもりだった。
しかしそれよりも早くバックハグの要領で抱き着いた彼の手にあるナイフが、女の首筋に当てられていた。
｢…どうして｣
目黒｢はは、気付いてないの？俺、｢α国の｣軍人なんて、一言も言ってないよ？｣
｢っ…！｣
しまった。油断を、しすぎていた。
しかし不可解な点が1つある。

シャワーの音はまだ聞こえている。
目黒｢…あぁ、助かったよ。シャワーを出しているだけで、勝手に風呂に入ってるって勘違いしてくれる馬鹿な女で｣
｢でも…洗面所にいなかったじゃない…｣
目黒の髪や身体に濡れた痕跡はない。けれど確かに確認した。洗面所のどこにも、彼はいなかった。

目黒｢あれ、そこまで知ってると思ってたんだけど｣
｢何をよ…｣
目黒｢俺たちは、｢怪物｣って呼ばれてるんだよ？｣
そう言って覗き込んだ彼の、闇のように真っ黒な瞳に映る自分の姿は、とても醜いものだった。
目黒｢…まあいいや。じゃあね｣
｢ま、待って、情報を渡すから｣
目黒｢いらないよ、嘘つく女の情報なんて｣

窓が赤く染まる。
されど、こんな高級ホテルの最上階の赤い染みなどに気付くものはいない。