106話:かわいいかよ。 ページ10
「えーっと、あの、仙蔵さん?」
私の手を掴んだまま無言で歩いていく仙蔵さんに、私は恐る恐る声をかける。
ちらりと見上げたその横顔が不満そうに口を尖らせていて、私は目をまたたいた。
……あれ? 怒ってる、わけじゃないのかな?
なんとなく、本当になんとなくだけれど、そんな気がして口を開く。
「仙蔵さん、ひょっとして拗ねてます?」
「拗ねてない」
私がそう言った途端にピタッと足を止め、眉間に大量の皺を携えて言ったその態度が全てを物語っていると思う。
ニヨニヨと緩む口元を右手で隠してみるけれど、心に湧き上がるからかいたい欲が止まらない。
「え、拗ねてますよね? やだ、かーわーいーぃたっ」
「うるさい」
プププ、と笑う真似をすると、心底嫌そうな顔をした仙蔵さんにバチンとデコピンをされた。
なんだよかわいいかよ。
初めて見た仙蔵さんの年相応な姿に、そういえばこの人は十五歳だったのだと思い出す。
あまりに偉そうで、年上然としていて、落ち着いていて私に優しいから忘れていた。
「あの、仙蔵さん」
「……なんだ」
「さっき私、兵助には曖昧に答えましたけど、貴方と仲良くないって思ってるわけじゃないですからね」
掴まれた手首を自然に解いて手を繋ぎ直しながら、私はへへっと笑う。
「天女の私と仲良くしてる、なんて言ったら仙蔵さんが困るかなって咄嗟に思っただけで、他意はなかったんです」
「私のことを考えての一言だったことはわかっている。気にするな」
……気にするなって言ってる仙蔵さんの方が気にしてる気がするんだけどね。
もう少しつついてやりたい気もするけれど、これ以上拗ねられて部屋へ案内してもらえなくても困る。
私は物分かりの良いフリをしてこくりと頷いた。
「そう言ってもらえるとありがたいです。……そういえば、私の新しい部屋ってどの辺りなんですか? 結構歩いていると思うんですが……」
そろそろ話題を変えようとそう聞くと、何故か仙蔵さんがスッと目を逸らした。
「え? 何ですか、その『スッ』は。え? 待ってください、何か隠してません?」
「行けばわかる。部屋の前で長次が待っているはずだ。急ぐぞ」
明らかに何かを隠している仙蔵さんが、さっきより早足で歩きだす。
「え? 中在家さんが待ってる、って何ですか? 教えてくださいよー!」
近所迷惑もお構いなしに叫んだ私に返事は返ってこなかった。
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真白(プロフ) - わそ姉大好きリスナーさん» ありがとうございます!ホントですか?それは光栄です。天女様系には素敵な作品も多くあるので、私の作品をきっかけに他の方のもいけるようになってくださったら嬉しいです(*´∀`*) (2023年1月29日 18時) (レス) id: f022b78e83 (このIDを非表示/違反報告)
わそ姉大好きリスナー - 面白かったです!自分は天女様系が苦手でしたけど、真白様のこの天女様系はなんかいけました!((^^ω)更新ファイト!!!!です(^^ω) (2023年1月25日 10時) (レス) @page23 id: 888b3d648c (このIDを非表示/違反報告)
真白(プロフ) - 千颯さん» わあああ!ありがたいお言葉ありがとうございます!!!私の更新が千颯さんの生き甲斐になっていたですって……?これからも気合いを入れて更新していきますので、楽しみに待っていてくださいませ! (2022年12月18日 18時) (レス) id: f022b78e83 (このIDを非表示/違反報告)
千颯 - 毎週投稿を楽しみに生きてます( これからも作者さんのペースで頑張ってください!応援してます! (2022年12月11日 11時) (レス) @page18 id: ecd2d0aa76 (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - れいらさん» この更新スピードは、れいらさんを始めとする読者の皆さんのおかげなんですよ!ご期待にお応えできるよう、これからも頑張りますね♪ (2022年10月22日 20時) (レス) id: f022b78e83 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:真白 | 作成日時:2022年10月22日 13時