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生きた心地がしなかった。
そう俺に語った松田の心情が、嫌でも分かってしまった。
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「______Aッ!!!!」
伸ばした手が虚しく空を切った瞬間、過去の忌々しい記憶を呼び覚ますように、鈍い痛みが頭に走る。
かひゅっと喉の奥が嫌な音を立てて、息の仕方がうまく思い出せなくて。
そのまま前に倒れ込んでしまいそうな俺の腕を、誰かが背後から引っ張った。
「緑川さん、退いて!!」
子供とは思えない力に引かれて、覚束無い足取りのまま一歩、二歩と窓から離れる。
……あれから随分と月日が経って、時々夢に魘されるくらいで、もう自分は大丈夫だと思っていた。
だけど、全くもってそんなことはなかった。
また大切な誰かを失うかもしれないと考えた時、どうしようもなく動揺して、冷静に思考できなくて。
する筈のない鉄の匂いが、鼻腔を擽っているような錯覚に陥ってしまう。
「くそッ、子どものくせに無茶しやがって……!」
そんな俺の目の前で、すぐ様Aちゃんの後を追うように、窓枠に足をかける小さな背中。
いくら頭が働かなくても、この後の展開くらいは容易に想像がついてしまう。
ダメだ、そんなことをしても無駄だ。
こんな上空から落ちて、普通の人間がただで済むはずがない。
そこに君まで行ったら、余計に被害者を増やしてしまうだけだ。
あの子だって、もう。
「コナンくん待って!!!今行ってももう……!!」
彼を引き止めようとする俺の横で、蘭さんがそう叫ぶ。
そんな彼女にコナンくんは「ごめんね、蘭姉ちゃん」と静かに呟いた。
「でも僕、行かなきゃ。前に松田刑事に言われたんだ。
______“あいつのこと、守ってやってくれ”ってさ」
その言って窓枠を蹴って青空に消えていく背中に、俺ははっと息を呑む。
……あぁ、そうだ。
何もAちゃんを助けられるのは、俺だけじゃない。
いつだってあの子を助けてきた奴が、まだ一人だけ居るじゃないか。
「萩原、」
あの子達を、頼んだ。
隣を吹き抜けていった冷たい風が、声にならなかった言葉をさらっていく。
……ほんと、不思議なものだ。
俺たちはあの日以来、一度だってお前が元気に動いている姿を見ていないのに。
いざという時に浮かぶ顔は、いつだってお前なのだから。
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無糖(プロフ) - シンデンさん» すみません、表紙絵の方は少し厳しいかもしれません……💦ご期待に添えず申し訳ないです🙇♀️ (4月23日 23時) (レス) id: 24145c4343 (このIDを非表示/違反報告)
FRISK。(プロフ) - 一気に読ませて頂きました!続き楽しみにして待ってます! (4月22日 6時) (レス) @page42 id: 6b38b8c85b (このIDを非表示/違反報告)
シンデン - 無糖さん» 無糖様返信有り難うございます。勿論モラルは守るつもりです常識と良識もって誠心誠意書かせてもらいます。とっっっても失礼なのですがあの、表紙の絵を書いて頂くことって出来ますでしょうか?もしも出来れば御願いしたいです。原作ファンも喜ぶと思うので… (4月21日 9時) (レス) id: 041e3f6835 (このIDを非表示/違反報告)
戦国娘(プロフ) - 更新待ってました!何気に浪速コンビとの絡みがここでやっと何だな〜と読みながら思いましたwww映画でも胸アツな2人だったので本編でも夢主との胸アツストーリーを楽しみにしてます😊 (4月20日 0時) (レス) id: 27df865018 (このIDを非表示/違反報告)
無糖(プロフ) - シンデンさん» コメントありがとうございます!私としても初のご提案だったので、返答が遅くなってすみません💦二次創作(三次創作?)の件ですが、作品元を明記する、本文をコピぺしない、等のモラルを守ってくださる場合に限り大丈夫です…!うちの子をよろしくお願いします! (4月19日 21時) (レス) id: 24145c4343 (このIDを非表示/違反報告)
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