検索窓
今日:2 hit、昨日:5 hit、合計:362,959 hit

30話 ページ32

.



『赤い花つんで、あの人にあげよ』

自分の歌声に合わせて、琴の弦を弾く。
久々に弾いた弦はひどく硬い。

『あの人の髪に、この花さしてあげよ』



日が沈んでから、これを何度も続けていた。
入浴を済ませ、貴重に保管していた艶やかな着物を着て、口に紅をさして、私は彼を待っている。

心を落ち着ける行為……やる事がなくて、辿り着いた結果だ。



少し指を休ませて、何百回目のくだりを始めようとした時、


「君は、琴を弾けるのだな」


静謐な声が私の歌を止める。もう飽きてきた頃だ。丁度いい。




『こんばんわ、煉獄さん』

顔をあげると、刀を携えた彼が経っていた。今日は十五夜の、晩だ。



「いつもと、違うな…雰囲気が」


『着物が綺麗なのと、口紅ひいただけですよ』


「ああ、綺麗だ」


『ねえ、煉獄さん。今日______』


「明日、それで出掛けないか」


『え???』



私は、てっきり今日_____首を撥ねて貰えるんだと。



「俺の好きな歌舞伎の演目があるんだ」


『それ…私で、いいんですか。ほら、だって、他に女性いるじゃないですか』


「他でもない、君がいいんだ」




ああ、そっか。
そう言われると、こんな気持ちになるんだ。




『曇りだったら、行きます』


「ありがとう」


『このままでいいんですか』


「本音を言えば、君だったらなんでもいいんだ。普段の君も艶やかな君も、俺にとっては同じだ」


『じゃあ、今日はそれを言うだけの為に?』


「烏では味気ないだろう?面と向かって言いたかったんだ。手間は惜しまないさ」





.






これは、決して逢い引きなんかじゃない……

死ぬ前の思い出を彼は作ってくれるのだ。




自惚れる私にそう言い聞かせた。





.

31話→←29話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (342 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
467人がお気に入り
設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。