序章 ページ1
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鬼舞辻無惨が配下の鬼に刻む呪い。
およそ100年前に私はそれを「克服」した。
しかし、それは彼の逆鱗に触れるに等しい。
間接的な支配と影響を受けなくなること。
正しく異端の象徴で、克服するものは少ない。そして彼の手の内から逃げ出していた。
逃げなくては。
永遠と続く畳を見て、私の体は血飛沫をあげた。
着ていた着物が真っ赤に染まり、どうしようもない痛みが体を駆け抜ける。
「A……私は 進化 が嫌いだ 」
畳を踏む音と共に、威圧的な声が私の名を呼ぶ。
進化が嫌い……鬼になり、無限城の空間の管理を任された琴鬼として何度も聞いた口癖。
「何故だかわかるか」
『…進化は、劣化…あなたは、完璧な状態である不変を好むから、です』
褒め言葉とでも言うように、犬の頭を撫でるような気軽さで私は腕をもがれた。
「限りなく完全である私の配下も不変でなければならない」
今度は脚をもがれ、頭を踏みつけられる。
私の中にまだ生きる鬼舞辻無惨の細胞が内側から私を殺すように動く気がした。
「A……私の支配を克服したお前は正しく 進化 」
腕をもがれ、脚をもがれても尚、私は絶対的君主から逃げようとしていた。
鬼になった時に、死にたいとまず思った。
命令され、人を殺して行くうちに死ぬのが怖くなった。
死んでもいいと思うのに、死ぬのが怖い。
感覚全て血と痛みに支配される中、強烈な熱さが体を巡る。
どうせ死ぬのなら、この男の手は嫌だ。
脚と腕、一本ずつ。頭を踏みつける脚の圧から逃げ出し、とにかく必死で走る。
空間を組み替え追跡してくる。
じわじわと追い詰めるように。
私は床に転がった琴を目指した。
懸命に手を伸ばす。あと少し、あと少し、あと少し。
『(絶対に殺されてなるものか……!)』
私が伸ばした手が琴の弦に触れるのと、鬼舞辻無惨が私を殺そうと手を伸ばしたのは同時だった。
弦を弾き、視界が暗転する。
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月明かりが私を照らしていた。
本当に静かな場所だったのを覚えている。
『死ぬかと思った……』
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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時