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「ウィラ」
「あら、サベダーさん。どうかしたの？」
女神像から小屋へ向かう丁度半ば程、僅かに心音が聞こえ始めるところに、彼は立っていた。
目深に被ったフードの向こうの表情は読みづらいものの、声音は穏やかだ。
「さっきのを見る限り、捕まえるのは俺の方がいい。……代わってもらえるか？」
確かに、私が逃げ出そうとしても傭兵であるサベダーさんなら、簡単に、且つ安全に取り押さえられるだろう。
「えぇ。でも、無理はしないで。あなたも、Aさんも」
「わかっている。俺も似たようなものだからな」
軽いやり取りの後、鋭い視線をサベダーさんに向けたナイエルさんは、小屋の方へと歩いて行った。
何故だろうか、彼女の姿は姉に重なる。
そのせいか、ついその背に手を伸ばしそうになるのをぐっと堪えた。
「……大丈夫か？」
「ここなら、まだ大丈夫です」
まだ、心音はほんの僅かに鳴っているに過ぎない。
それに比例するような焦燥感があるとはいえ、悲鳴はまだ聞こえない。
「……俺は、暗号機の音が恐ろしい。同様に、お前は心音が恐ろしいだけだ」
サベダーさんがこちらを一瞥もせずに呟き、前方に見える小屋の窓枠を指差した。
「さっき出ていくとき、窓枠を越えただろう。あの乗り越える速さは、おそらく俺と同程度だ。
……お前の経験は確かに恐ろしいものだろうが、確かな力だ。
それが生き延びるための原動力なら、無理に克服する必要はない」
窓枠に関しては記憶にないが、あの場にいた彼が言うのだ、間違いはないだろう。
ここは戦場と同じだ、と少し俯きがちに、吐き捨てるように彼は言った。
そして、不安なら掴んでいろ、と差し出された腕にそっと触れる。
細身の外見とは裏腹に、鍛え上げられた筋は彼が本当に傭兵であることを感じさせた。
「行くぞ」
一歩、また一歩と足を進めるにつれて、心音と不安が強くなる。
サベダーさんの腕を掴む力も強くなり、彼も私が逃げ出すことを警戒しているのだろう、腕に力が入っていた。
そして、小屋の窓の前。
その奥に、無常さんの姿が見える。
無意識のうちに身を引いていた私を、サベダーさんが素早く背後から捕らえた。
両肩を捕まれ、身をよじることもできない。
「逃げるな。これは、今必要なことだ」
威圧する低い声が、耳元に聞こえる。
触れられていることなど、どうでもいい。
それ以上に、頭の中で反響する悲鳴が恐ろしかった。
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セネン@半ゴリラデビュー(プロフ) - 戌井そらさん» コメントありがとうございます。読んでいて心地よくなれていただいたようで、大変嬉しく思います。各登場人物の生活に沿った言葉選びを意識して書かせていただきました。プロファイリングは特に力を入れたので、お褒めいただき光栄です。これからもよろしくお願いします (2020年3月3日 1時) (
レス) id: 0fe89fde48 (このIDを非表示/違反報告)
戌井そら(プロフ) - コメント失礼します！作者様の小説全体的の言葉選びがとても綺麗で、読んでいてとても心地が良いなと思いました。それにプロファイリングのところの書き方なども綺麗にまとめられて見やすく、更にはお洒落で…。すっごく憧れます！！これからも更新頑張ってください！ (2020年3月3日 1時) (レス) id: 803ceaac19 (このIDを非表示/違反報告)
セネン@半ゴリラデビュー(プロフ) - あんこさん» コメントありがとうございます。少しでも夢主と読者の皆様が一体となることができ、世界観に没入できるように工夫させていただきました。これからも、楽しんでいただけるような文章を書き続けていきます。よろしくお願いします。 (2020年3月2日 21時) (レス) id: 0fe89fde48 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - とても好きです。だんだんと夢主の能力が明らかになっていく所でわくわくする事ができ、プロファイリングが出た時はとても興奮してしまいました。文章も読みやすく、とても楽しく読ませていただいています。試験、お疲れさまでした。これからも応援しております。 (2020年3月2日 20時) (レス) id: c12f380ffd (このIDを非表示/違反報告)
セネン@半ゴリラデビュー(プロフ) - 寝ろさん» コメントありがとうございます。物語がより彩り豊かに、かつ皆様に読みやすいように言葉を選ばせていただいています。試験でよい結果が残せるよう、全力を尽くします。その後は更新に専念できると思いますので、これからもよろしくお願いします。 (2020年2月20日 20時) (レス) id: 0fe89fde48 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：セネン | 作者ホームページ：
作成日時：2020年2月11日 9時
