[Elext City] Ⅱ (ページ5)

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松村「樹！」
Juri「…北斗、どう、どうしよう、おれ、」
いつもの小部屋に入って、Juriを呼び出した松村は、本人も何が何だかわかっていないらしく焦りながらボロボロ涙を流すJuriを慰めるようにそのバーチャルの背中をゆっくりと擦った。
パチリ、と何かが弾かれる音がした。

松村「樹、大丈夫。樹はおかしくないよ」
Juri「でも俺、何で、」
松村「…樹は、おかしくなんか、ないから…」
Juri「北斗…？」
顔を見られないように抱き締めても、聞こえる声は震えていたらしい。
Juriは心配そうに松村の顔を覗こうとする。
そっちだって、涙止まってないくせに。

松村「樹は、正常、だよ…」
Juri「ほ、北斗、落ち着いて。…ね？」
宥めようとしてくれているのか、濡れた声で背中をゆっくり叩いてくれるその手に、バーチャルなのにもかかわらず妙な暖かさがあるような気がした。
…3日だけ誕生日が早いからって、いつもそうやってお兄ちゃんぶろうとしてくるんだ。
自分だって、辛いくせに。

Juri「…あ、あのね、北斗」
止まらない涙を流し続けるJuriは、それでも松村に尋ねる。
Juri「あの短剣は、あの人を救う為じゃ、ないの…？」
控えめに、恐る恐る呟かれた声。松村は彼を離すと、その腰に下がっている短剣を視認する。

松村「…そうだよ、救う為、だよ」
Juri「あれは、何だったの？シャットダウン、って…」
花火大会のフィナーレの最中、確かに「あの人」に突き刺したそれは、「シャットダウン」を承認するか非承認するかなんて文言を生み出したものだった。
慌てて引き抜いた彼は、急いでその場を後にしたものの、やっぱりあの時の文言と、この短剣の事について気にならないと言えば嘘になる。