探偵達はカフェにいる【オリジナル】 (ページ9)

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ルヴトーにジャスミン茶をページ9

　常識人、というのは言葉がおかしいのだが……そうとしか言えない探偵を一人知っている。あの人が常連の探偵１０人の中で、一番の良心だと思うのは私だけじゃないはずだ。

「こんにちはAさん」
「いらっしゃいませ、ルヴトーさん」

　彼がその良心、ルヴトー・ファンタスマゴリ。年は３５歳で、ミュージカル俳優もしている探偵。常連の中では唯一の子持ちで、１０歳の息子さんと６歳の娘さんがいる愛妻家。人当たりもいいし、優しくて陽気。よくもまあ、あの探偵達と仲良くやれると思う。ムジカさんとかアドニスさんとか扱い辛……いや、なんでもない。とにかく、同じミュージカル俳優兼探偵だというのに、ムジカさんやアドニスさんよりも性格が良いと思う。
　……もし、私の心の内を読める人が居たら、どうかこれは本人達に内密にしてほしい。

　前に聞いた話だが、ルヴトーさん達が住んでいる所は『グロースシュタット』という名前の王国だそうだ。現国王がとても良い人で、他の国との戦争も起きていない平和な国。……まあ、平和の±値を均等にさせたい神の思し召しかは分からないが、自国でよく事件が起きているけれど。良いところがあれば必ず悪いところがあるのって人生と同じだよなあ。

　しかし……ルヴトーさんを見ていると、どうしても猟奇的な事件を解いている探偵には見えないんだよな。穏やかな感じの男性だというのに、事件現場では華麗に推理をなさっていると、こういった訳だろう？人って見た目じゃないんだなあ……

　おっと、こんな事をしている場合じゃないか。注文のジャスミン茶を作らないと。ルヴトーさんがよくジャスミン茶を頼んでくれるから、ついにカフェの中でハゴロモジャスミンを育て始めてしまった。そこら辺のコンビニからジャスミン茶を買ってきて入れれば楽なんだけれど、まあそれは何というか、カフェのマスターとしての矜持が許せなかった。かと言ってなあ、ついに花育て始めてしまったよ……これじゃあ渋いマスターじゃなくて優雅なマダムだよ。

　花を摘んで、次の注文の為に乾燥させておく。先週に作っておいたジャスミン茶を丁寧に注いで……よし、完成。うんうん、花のいい匂いがする。このジャスミン茶がウケて女性客とか増えないかなあ……もうちょっとお客さんいても良いと思うんだけれど。カフェ『レッツェル』をよろしくお願いしますよ。

「お待たせしました、ジャスミン茶です」
「ありがとうAさん」

　楽しそうにお茶を飲んでいるルヴトーさんを見ると、やっぱり探偵姿が思いつかないなあ、と考えてしまった。